高齢者施設が若者ボランティアの学生寮に

Source: http://atlasofthefuture.org/project/humanitas/ Usage rights: CC BY-NC-SA 4.0

一人暮らしの高齢者と若者の 交流 が相互利益になるお話をご紹介します。高齢者施設にボランティア学生が住むという、革新的な多世代間交流の生活スタイルが2012年にオランダのダベンター市(Deventer)で始まりました。その契機となったのは、オランダ政府があまり困っていない80歳以上の高齢者に関する予算を削ったことでした。それまで高齢者のケア施設で良い待遇を受けていた人びとは、諸々のサービスを受けられなくなる事態に直面しました。

ウマニタス(Umanitas)はオランダの高齢者施設の一つです。ダベンター市で一人暮らしの老人ホームや長期滞在型のナーシングホームを経営するウマニタスの経営者は、学生のような経済的に余裕のない若者が、ボランティアとしてホームに住むアイデアを思いつきました。というのは、もし学生たちがウマニタスの部屋に住めば、彼らは勉学のために多額のお金を借りなくても良くなります。オランダの大学のキャンパスに近い学生寮などの宿泊施設は窮屈でみすぼらしいうえ、当時9000室が不足していました。もし学生たちがウマニタスの部屋に住むことができれば、高齢者ケアが必要なウマニタスは、温かく素晴らしい施設になると考えたのです。それは既存のインフラ(施設)を可能な限り利用する、シェアリング的な循環経済です。

ウマニタスではボランティア学生の入居を依頼した後、革新的な多世代間交流の生活スタイルが始まりました。ある学生は大学の授業の後、自転車で少し回り道をして、魚屋さんから魚の切り身を買います。彼が住むホームの隣人とは魚の好みが合うので、面倒なことではありません。彼はホームの93歳になる隣人に届けて食事を共にします。彼は85歳以上の160人の高齢者が住むウマニタスの6人のボランティア学生の一人です。月に30時間のボランティア活動をこの施設で行えば、学生は無料でこのホームの空き部屋に住むことができるのです。

施設の入居者にとって学生たちはホームの外の世界への窓口になります。学生が授業、コンサートやパーティから施設に帰ってきて、学生たちはその経験を高齢の隣人達と共有できます。学生のボランティア活動として、SNS、Eメール、スカイプなどの新しい技術を高齢者に教えてあげることもできます。これらは社会的な包摂の強化になり、生活の質の向上にも資するでしょう。

孤独に関する研究が示すように、精神的な衰えや増加する知人の死、そして友人や家族との日常的で社会的な交流は、高齢者の健康と大きな関連があります。挨拶をしたり、冗談を言ったり、市場から魚を買ってきたりすることは、学生がウマニタスの高齢者にできる小さなことですが、それだけではありません。ある深夜に一人の高齢者がウマニタスのスタッフに乱暴をして、起こされた学生がいましたが、学生を見るなり知り合いのその高齢女性は瞬間的にリラックスして、学生を見るなり幸せそうな表情になったこともありました。

ウマニタスがこのモデルを始めた後、オランダの他の二つの施設も倣い、フランスのリヨンでも導入されました。また米国のクリーブランドの一人暮らしコミュニティが、クリーブランド芸術音楽学校学生たちを受け入れていました。1990年代にスペインのバルセロナで始まった世代間交流プログラムはスペインの20の都市が倣いました。多世代の人びとが交流しながら生活することは、次第に人びとの支持を得るようになっているようです。

本記事の内容は、”Sharing Cities: Activating the Urban Commons”(Shareable発行)のChapter1 Housingの一事例 ”Umanitas: Senior Care Meets Student Dorm in Shared Intergenerational Living” および下記の参考資料を基に作成しました。この書籍からは、本サイトの「私のブログ」に多数の事例を紹介しています。(中島正博)

参考資料:
https://www.shareable.net/5-community-sharing-projects-in-israel-and-the-west-bank/
https://innovationinpolitics.eu/showroom/project/humanitas-retirement-village/

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