民泊施設の届け出が開始~地域コミュニティと民泊のルールづくり~


今年6月15日から、「民泊」として一般住宅で宿泊を提供する住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されます。それに先立ち先週3月15日から事前の民泊施設の届け出が始まりました。これまで「民宿」は旅館業法で定める「簡易宿所」の「許可」が必要でしたが、民泊新法により宿泊施設に関する規制が大幅に緩和されて、「民泊」は住居専用地域以外では一般の民家でも「届け出」をすれば営業することが可能になったのです。

近年の外国人観光客の増加に伴いヤミ民泊が急増しました。また2年後の東京オリンピックによる外国人観光客の増加に備えて、政府は宿泊施設の増加対策を迫られています。現在の無許可・無届けのヤミ民泊という矛盾を無くし、外国人観光客の受け入れ能力を拡大するために、民泊新法が昨年制定されたのです。

実は民泊の起源は1964年の東京五輪にあるようです。当時、ホテルが不足していたので、東京都の呼びかけでおよそ600世帯が民泊を行い、日本の民泊は公式にはこの時始まったのです。その時、民泊を外国人に提供し家庭的なもてなしをした人たちは、その交流で生まれた効果を語っています。もてなす日本人が国際的な感覚を身につけて、その後も続く交流で外国に友人を持つことは、国際平和にとって大切な文化的な一要素になります。

しかし、当時の家庭的なもてなしを伴う宿泊と、現在の商業的な民泊は同じではありません。これまでの民宿や民泊は、宿泊施設の提供者と宿泊者が交流できることに大きなメリットがありました。しかし、これからの民泊制度による弊害を多くの人は懸念しています。案の定、民泊新法に対する自治体の対応はさまざまです。住民の生活環境を守るために条例で規制を加える自治体がある一方、地域経済の活性化を期待して、条例制定や規制をすることに消極的な自治体もあります。

民泊事業者はコストを低く抑えて施設を運営し、そして民泊利用者は便利に施設を利用できるようになっています。宿泊予約はインターネットで行い、住宅施設の所有者や管理者に会わなくても、部屋の鍵を受け取れる仕組みができています。その結果、住民の見知らぬ外国人旅行者が、突如マンションの隣の部屋に泊まる状況が生じます。ホテルではない一般の住宅に、全く知らない人が泊まることに不安を抱く隣人もいるでしょう。現実に民泊で弊害が起きています。ゴミ、騒音の問題です。外国人旅行者は曜日ごとの分別ごみの出し方を知りません。道でキャリーケースを引く音や、部屋の中で仲間と騒ぐ騒音を嫌がる近隣住民もいるでしょう。最悪のケースは犯罪の場所として使われることです。

このような弊害は、宿泊施設の所有者や管理人が、宿泊者と直接会うことで防げる可能性があります。そして近隣住民が民泊住宅の存在と、宿泊者に注意を向けることも効果があるでしょう。「隣は何する人ぞ」という無関心は、民泊による弊害の可能性を現実のものにするかもしれません。やはり近隣の住民と挨拶くらいはして、互いに協力し合うコミュニティ意識が必要でしょう。宿泊者にゴミ出しの方法を教えてあげられるし、不安のある宿泊者に対しては、不審な挙動を許さない「衆人監視の目」にもなります。そのように住環境を皆で守るコミュニティ意識が有効かつ必要でしょう。近隣の地域社会がしっかりしていれば、弊害の不安要素は「コミュニティの力」で、ある程度は解消できるのではないでしょうか。

また民泊施設が存在する地域やマンションの住民は、もし民泊者による深刻な弊害が発生したら、行政に対してコミュニティとしてみんなで苦情を訴えることができます。個人的に苦情を訴えるよりも、コミュニティを代表して発言・陳情ができる町内会や自治会は、行政に対して効果が大きいのです。それが安全に民泊を提供する仕組みや規制を設ける力になると思います。これから条例や規制を設ける自治体が多いと思いますが、初めから理想的なルールを作るのは不可能です。試行錯誤は避けられないでしょう。困ったことが生じたら、素早く対応できるようなルールにしておくべきでしょう。地域の特性と共に地域コミュニティの特性(文化)により、必要なルールは地域で異なるはずです。つまり民泊を実施しながら、ルールを改善することが望ましいと思います。

観光地では、住環境に影響を及ぼす観光客と従来の住民との軋轢はどうしても生じやすいものです。しかし住民の地域社会や経済を活性化する効果もあります。マイナスを小さくしてプラスを大きくする、行政や地域コミュニティの努力が欠かせないと思います。(中島正博)

NHK NEWS WATCH 9
中国新聞αアルファ

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