4.シェアリングシティと住宅~都市コミュニティの必要性と住宅コモンズ~

『Sharing Cities(シェアリングシティズ)』に掲載された最初の事例は都市の住宅供給(第1章)です。ハウスシェアリング(cohousing)、ホームレスなど貧困層への住宅供給、空き家、民泊の事例などがあります。既存の住宅を都市の資源(コモンズ)と見なして、それを民泊用に提供するシェアリングは社会的な利益と同時にいろいろな問題も引き起こします。

私の今年3月22日のブログ記事で「民泊施設の届け出が開始~地域コミュニティと民泊のルールづくり~」と題して、民泊は地域コミュニティに十分な配慮が必要なことなどを主張しました。アメリカでも民泊の用途への供給に問題が起きており、カリフォルニア州オークランドでは、2016年にその問題解決のための政策が発表されました。住宅コモンズの民泊利用をコントロールする都市コミュニティの役割について、以下に事例を紹介します。

民泊は都市の住宅の空いた部屋を、旅行者の短期間(凡そ30日以内)の需要に提供することであり、Airbnbなどのインターネットサイトがそれを容易にしました。民泊の利益として、町の住民が持つ空いた部屋を使って収入を得て、宿泊需要を満たせない地域で宿泊を提供し、ホテルが満室の場合は需要の不足分を補い、旅行者があまり訪れない地域に観光客を呼び込む経済活動などの効果があります。

しかしインターネットサイトが宿泊需要の市場を大きく開拓した地域では、重要な欠点も現れました。ホテル業に関連した市町村の収入の減少、保健や規制区域に関する違反、安全上の懸念、騒音に関する苦情、そして最も重要な問題は都市で安価な賃貸住宅が減少することです。多くの都市では、住宅所有者が長期の賃貸居住者を追い出して、より大きな利益が得られる民泊の客に住宅を貸したり、不法なホテルを設置するために住宅不動産を投機家に売却したり貸したりしています。

カリフォルニア・オークランド市の「持続可能経済法律センター(SELC)」は、民泊を公平に規制するガイドブックの「短期レンタル規則:公平な政策のためのガイドブック」を作成しました。そのガイドの骨子は民泊のある側面を法律で規制して、公共の利益を確実に守ることです。ガイドが扱っているのは宿泊提供者、宿泊客、地域コミュニティなどの関心事や自治体行政の以下の関心事、すなわち市民への安価な住宅供給、宿泊客の福祉や安全の確保、民泊の近隣住民の諸権利を尊重する事、民泊提供者や商業ホテルに公平な方法で自治体の税収入を確保する事、そして報告や帳簿作成を確実にすることです。

市町村の政策立案者が、このガイドを一般的な原則として参考にしながら、地域のすべての利害関係者と対話をして、それぞれの町の特有な事情に合わせて規則を作るようにSELCは薦めています。このガイドブックは2016年に公表されたので、まだガイドの全体は都市に採用されていません。しかしこのガイドに沿って、すでに幾つかの都市の自治体はそれぞれの条例を立案しました。例えば、リスボン、パリ、アムステルダムや米国の数都市は、Airbnbが責任のある住宅シェアリングをすると同時に、民泊提供者に代わってAirbnbが旅行者税を徴収して、市当局に送金するべくAirbnbと合意して契約を交わしました。

以上に紹介したのは、都市の住宅資源を民泊の需要者とシェアする際に、都市社会にメリットとデメリットが生じたために、そのデメリットを減らして問題を解決する政策が講じられるようになった経緯です。最も大切なことは、すべての利害関係者が対話によって規則を作ることです。それぞれの町には様々な規模や特徴があるので、公平な対話でルールを定めることは容易でないと思います。しかしすべての利害関係者が対話で資源利用の合意形成をすることは、都市コモンズの民主的な資源管理の重要なプロセスです。すべての利害関係者のコミュニティは恐らくまだ存在しないでしょうから、合意形成はそのコミュニティの形成から始めなければなりません。そして合意形成には試行錯誤が伴うでしょう。その合意が守られているかどうかは、コミュニティのメンバー間でチェックするのがコモンズの資源管理です。

都市のコミュニティが自らを組織化(合意形成)することは、先の記事「シェアリングエコノミーとシェアリングシティ」(第1回~第3回)で何度か触れたように、市民やコミュニティが都市経営の主役になるために必要です。都市の市場において資本の力に市民が支配されるのではなく、市民による市民のための都市の創造に必要であると思います。都市コモンズの資源管理は容易ではないでしょうが、人類は歴史上、世界の至る所で自然資源のコモンズ(シェアリング)を実現してきました。都市資源のコモンズ的な利用管理(シェアシティ)は、貧困や環境などの問題解決に向けて、新たな開拓が始まった段階だと思います。如何でしょうか。(中島正博)

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