西日本豪雨の被災と復旧の語り部に代えて~第9回 1月の1カ月間

今回、注目するのは豪雨災害後、半年が経過し約7カ月目に入る2019年1月の1カ月です。この語り部記事の最終回です。中国新聞朝刊から作成した災害関連記事の見出しデータの表を文末に掲載し、それに基づいて被災から復旧に向けた出来事を解説します。

災害関連死が広島県内で12月に初めて東広島市の3人が認定されました。次いで1月に三原の3人(29日の記事、以下同様)、竹原の2人(30日)が認定されました。早めに避難するため住民同士で声を掛け合う取り組みが広がっています。被災した広島市安芸区上瀬野町の清山団地では声掛けを徹底することにし、行政の避難情報を基に各世帯に電話をして、自力避難が困難な高齢者を連れて逃げる担当者を決めました(1日)。日本防災士会広島県支部が、広島市南区で月一度開く「防災カフェ」の参加者が増加し、自由な意見交換をしています(30日)。

1月は「検証」が豪雨災害の関連記事の大部分を占めました。元旦の検証記事は以下の通りです。広島県教育委員会が水害に力点を置いた防災の新しい教材を作成します(1日)。また広島県知事は被災の教訓を胸に、世代を超えて「避難の文化」を醸成することと、そのために避難に関する教育の必要性を強調しました。岡山県知事は被災地のコミュニティ再興の重要性、愛媛県知事はダム下流域の不安解消を急ぐこと、砂防学会会長は被災の記憶を引き継ぐ取り組みの重要性に言及しました(1日)。さらに防災技術の研究開発として、交通状況のビッグデータを救助や支援に生かすこと、雲を捉えて豪雨予測をする高精度気象レーダーなど、そして地域ができることとして、防災マップの作成を通し高齢者避難や防災教育に取り組んでいる地域が紹介されました(1日)。

検証の連載記事「揺れる地域」が掲載されました。第1回は業者の不足で公費による半壊以上の家屋の解体が進んでいないことです。そのため地域の復旧ができず、人口流出が加速する兆候が現れています(6日)。第2回は仮設住宅へ移った被災住民で、自宅を再建することが難しい住民から、災害公営住宅の建設を自治体に要望する声が高まっていること(8日)。第3回は過去、形だけだった自主防災会を活発化させる動きが被災地で増えていることです。しかし、5年前の「広島土砂災害」に見舞われた地域で、一時は高まった避難意識が弱まる現状があり、自主防災の難しさを示しています(9日)。第4回は災害後、唯一不通が続くJR芸備線の狩留屋~三次の行方です。「激甚化する災害リスク」を理由の一つに、昨年廃止された三次~江津(島根県)の三江線の記憶が、今回の災害が芸備線廃止の引き金になるかも知れないと、住民を不安にしています(10日)。岡山県倉敷市が行った被災世帯調査によると、洪水被害に遭った真備町では、「真備で再建」する世帯が8割を越したことが分かりました(31日)。

第5回は水道施設や田畑が被災した呉市の市原集落で、田畑や家の復旧の見通しが立たず、住民が減って「地域が揺れる」現状です(11日)。第6回は県内で被災した農地が1000ヘクタールを超えたことです。復旧までに2、3年かかる見通しで、農家の高齢化や後継者不足を背景に、離農や里山荒廃に拍車がかかる恐れがあります(12日)。第7回は山口県で被災した集落のことです。被災前に暮らしていた20世帯が福祉施設や県営住宅に移り、集落は15世帯に減少し、助け合いの慣習「五軒組」の維持が人口減少で困難になりそうです。また6世帯あった他の集落は、被災後5世帯が集落を離れて、消滅の瀬戸際にあります(13日)。東広島市では広島大生が農地の復旧に協力しました(27日)。第8回は阪神大震災を機に被災地支援を続けるNPO法人の代表理事に、被災地の復興に向けた課題を聞きました。住民が話し合う協議会の場を設けて復興に反映し、自治体が災害公営住宅などの方針を早く示し、行政はきめ細かい住民支援をすることなどが強調されました(14日)。

西日本豪雨での避難行動や、避難情報の入手方法、防災意識などを把握するために、広島市内6区の17小学校区の住民1700人を対象に、2018年9月~10月に市はアンケート調査を実施しました。課題を検証する市の有識者会議は、アンケート結果を踏まえた報告書をまとめ、12月に市に提出しました。そのアンケート結果が中国新聞に掲載されました(23日の検証記事)。避難した理由は多い方から、雨の降り方などで身の危険を感じた(24.2%)、家族に避難を進められた(12.1%)、近所の人や消防団員たちに避難を進められた(9.5%)、避難指示(6.3%)‥などです。避難しなかった理由は、被害に遭うとは思わなかった(13.1%)、避難する方が危険だと思った(10.0%)、雨の降り方や川の水位から安全と判断(9.5%)‥などです。避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示などの意味を知っていたのは、それぞれ57.7%、65.9%、65.2%であり、十分には理解されていなかったことも分かりました。

熊野町は今後新たに作成するハザードマップを、自治会未加入による配布漏れを防止するために、全戸に郵送する方針を決めました。これまでは自治会を通じて加入世帯に配っていました(25日の検証記事)。これは自治会加入率が減少している他の市町にも、同様に必要な措置であると思います。広島市は、避難勧告や避難指示の防災情報メールを市民に送る際、今までのように区単位で送るのではなく、小学校区単位での発信に変えることにしました。住民が周辺地域の避難情報メールを頻繁に受け取って、自分に必要な情報が埋没することを防ぐのが目的です(30日の検証記事)。

広島県企業局が纏めた水道施設の防災対策案は、断水などの深刻な被害を受けた豪雨災害を踏まえて、従来の地震中心の備えを変えて土砂災害や風水害にも対策を広げます。川の水道管を移動あるいは埋設すること、ポンプ設備を2階に移設すること、などを含み56施設について対策を行います(17日)。

中国地方の2019年度の景気予測は、豪雨災害からの復興需要が下支えして、実質経済成長は1%前後と予測されています。米国と中国の貿易摩擦で世界経済が減速して、輸出にブレーキかかる懸念もあります(18日)。

以上の他にも、本文の後に掲載した表「記事見出しデータ」から分かるように、被災と復旧に関連する出来事が報じられました。

「被災と復興の語り部に代える」記事は被災後半年経過の今回をもって最後とします。これまでの全9回の連載やその後の復興の過程を通して、コミュニティづくりを中心に私が学んだことを今後の記事にしたいと思います。

(中島正博)

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