中山間地域の自治機能の再編とコミュニティづくり

島根県邑南町口羽地区の一部

中山間地域の人口の高齢化や減少とともに、過疎化する集落での自治や生活が困難になっています。そのような現状の中で、地域コミュニティの再生を目指して、創意工夫を続けている広島県作木町と島根県邑南(おうなん)町を尋ねました。この町で2022年11月12日~13日に開催された、コミュニティ政策学会中国地域研究支部「移動フォーラム」において、この地区の取り組みが報告されました。その報告に基づいて邑南町口羽(くちは)地区の取り組みを紹介します。このフォーラムで配布された資料と「自治会の枠組みを超えた住民自立型地域経営組織の構築と運営に関する事例研究(Ⅱ)」(嶋渡・小田・有田2012年)を参考にしました。

人口減少や高齢化による集落の困り事は、①地域自治に関して集落会、自治会、団体の役員になれる人がいない、葬儀の手伝いに出られない、道の草刈りや溝掃除に出られない、伝統行事の実施が難しいことなど、②農業に関して耕作放棄地の増大、裏山の雑草や竹藪の繁茂、有害鳥獣の被害など、③日常生活に関して路線バスの廃便による通院や買い物、家の周りの草刈りや除雪、急病や災害時の不安などです。

口羽地区全体は4つの自治会からなり、各自治会は3から8の集落からなり、口羽地区には合計20集落があります。各集落の世帯数は2007年に5~40世帯で口羽地区に合計373世帯(総人口872人)、15年後の2022年には各集落に2~37世帯で口羽地区合計284世帯(総人口585人)に減少しました。現在20世帯以下の集落は口羽地区全集落のうち16集落に及びます。各集落の2022年の高齢化率は40~100%です。それぞれの集落には昔から合計19の役務が求められてきました。その役務をすべて列挙すれば常会長、副会長、会計、葬儀世話役、行政連絡員、自治会役員、転作委員、野猿組合、保健委員、PTA担当、福祉委員、女性会、農協担当、森林組合担当、農業共済担当、漁協担当、宮総代、寺総代、仏教婦人会です。20世帯以下の集落が16も存在する状況において、すべての集落が19もの役務を担うことは不可能です。そこで口羽地区では不要な役務を止めて、集落や自治会の範囲を超えた、集落支援センターの機能を担う組織の設立を構想しました。

2004年の町村合併の年に島根県の邑南町が生まれ、同町の最東部に位置する口羽地区や広島県三次市作木町の有志が、江の川流域会議として「NPO法人ひろしまね」を2004年に設立し、「もう一つの役場的地域活動組織」の創出を構想します。そして2007年には集落支援センターの設置実験を行い、2008年から2009年に同センター創設協議会を発足させ、2010年には同センターの具体化として「口羽をてごぉ*する会」を結成しました。口羽をてごぉする会は、2010年に口羽地区社会福祉協議会に口羽をてごぉする特別委員会を設置し、2011年には収益部門の「LLP口羽をてごぉする会」を設立しました。2011年に合意形成のために各自治会長ほかをメンバーとする「口羽地区振興協議会」を設置しました。(*てごぉは手伝いの意味)

この口羽をてごぉする会は自治会や集落の枠組みを超えた、住民自治型の地域運営組織と位置付けられています。口羽をてごぉする会、LLP口羽をてごぉする会、口羽地区振興協議会の3つの組織は、それぞれが地域福祉(集落運営と高齢者生活支援)、経済活動(地域運営に必要な資金源の確保)、自治(対行政と対自治会との連携・交渉)の3つの機能を中心に活動しています。3つの組織は事務局を共有し、主要な構成員は同じであるために、縦割りの弊害を避けて、臨機応変に異なる3つの機能を果たしています。

収益部門を担うLLP口羽をてごぉする会は有限責任事業組合(LLP)であり、地域の民間の新聞配達業者が廃業したことに伴い、その事業を引き継ぎ地域運営の資金源を安定的に獲保するために設立されました。新聞配達をしながら、高齢者の安否確認やご用聞きなどの高齢者世帯の生活支援を併せて展開できます。また新聞配達以外にも、邑南町行政の指定管理者として羽須美交流センターや温水プールやキャンプ場の施設運営を請負、仕出し用農産物販売、高齢者支援として農地管理事務、登録作業員事務、通院や買い物のデマンド交通、農業法人会計の請負などの経済活動を行っています。指定管理者制度のように邑南町行政の外注を受けて、さらに収入を増やすことも考えられています。このような経済活動は地域運営を3つの組織に分離することによって可能になった創意工夫の表れです。

以上に紹介した地域運営の対象地域を口羽地区からさらに広げて、口羽地区に隣接する阿須那(あすな)地区を合わせた羽須美(はすみ)地区の運営組織の創設が進んでいます。羽須美地区の2012年の総人口は1694人であり、9年後の2021年には20%減少して1334人になりました。現在からさらに15年後には807人、30年後には484人にまで減少すると推計されています。暮らしを維持するために、地域住民はこの人口減少に対応しなければなりません。集落自治の住民負担を減らすために、集落の行事を複数集落の行事に統合したり、その規模を半分に整理したり、集落の役員や役務を集落単位から複数集落あるいは自治会単位に共同化したりすることが検討されています。すなわち集落や自治会の自治機能を再編し共同化するのです。

すでに2018年に羽須美地区のデマンド交通の運行主体として「NPO法人はすみ振興会」を設立し、2019年には自家用有償旅客運送(はすみデマンド)を導入・運営して現在に至っています。口羽地区の集落支援センターの役割を「口羽をてごぉする会」が果たしてきたように、今後は羽須美地区の集落支援センターの役割を、「NPO法人はすみ振興会」が果たすよう構想されています。島根県邑南町東部の自治機能の再編・共同化の挑戦は、今も進化を続けているようです。

NPO法人はすみ振興会の事務所

ここに紹介したのは中山間地域の集落や自治会の事例です。集落や自治会の枠組みを超えた地域運営のための仕組みづくりです。そのコミュティづくりのための、地域住民による創造性や柔軟性に富む工夫は、都市部の地域運営においても参考になるのではないかと思います。また過疎地域の集落や自治会の自治機能の再編や共同化は、都市地域の町内会・自治会の自治機能の再編や進化を先行しているのかもしれません。(中島正博)

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