認知症の人たちと共生するまちづくり

コミュティはいろいろな必要によって生まれて成長します。まちの住民が認知症になっても、その人たちが生活しやすい地域コミュニティを創ることは、その必要の一つです。そのようなコミュニティづくりのために、最近出版された『認知症が拓くコミュティ』(手嶋 2022年)を読みました。その本の一部を紹介します。

認知症本人とその家族たち(当事者)の運動が、過去数十年にわたるコミュニティづくりに大きな役割を果たしました。本書の第1章では、そのコミュニティづくりに関連する既存の研究をまとめています。第2章では、その当事者の運動が認知症に対応する日本の法制度の形成と発展に、どのように係わってきたか明らかにしています。

認知症の人が自分のまちで生きがいをもち安心して暮らすためには、まちの住民が認知症について理解をして、さらに認知症の人と共にまちで生活する住民の姿勢が大切です。最近の新聞報道によれば、認知症の高齢者が徘徊して行方不明になる事件が現在も続いています。認知症の人の命を守るために先ず必要なことは、徘徊が発生したら近隣の住民がいち早く発見することです。発見したら関係機関に連絡したり、帰宅を支援したりする人々のネットワークが効果的です。

そのようなネットワークを構築したまちや、認知症の本人が安心して暮らせるまちの先進的な事例が本書の第3章で紹介されています。北海道・釧路市の「タンポポの会」による「釧路地域SOSネットワーク」、福岡県大牟田市の「ほっとあんしんネットワーク模擬訓練」、東京都町田市の「認知症フレンドシップクラブ」などです。これらの事例を通して、認知症の本人とその家族、そしてまちの住民がネットワークの構築やまちづくり活動を推進したことが明らかにされています。

まちの住民が認知症の人やその家族の課題を理解し、彼らと共に生きる上で重要な施策は、認知症サポーター養成事業、認知症カフェ、市民後見人養成などです。本書の第4章では、日本全国で実施されてきたこれらの施策の成果を明らかにしています。認知症サポーター養成事業は、私たちが認知症の症状に関する知識を得て、認知症の人たちとスムーズな意思疎通を図る方法を学ぶために有効な施策プログラムです。認知症カフェは認知症の本人やその家族と私たちが共にカフェに集い交流し、彼らが社会的に孤立しないよう、住民との人間関係を創ることが目的です。市民後見人養成はまちの住民が、認知症の人のために成年後見人制度の後見人を担う施策です。

認知症の人やその家族とともに生きるまちとはどのようなまちでしょうか。そのまちが備えるべき構成要素(条件)として、著者はこれまでのまちづくりの分析から、第5章で以下の3点を挙げています。つまり「認知症の人と家族が活発に社会参加し尊厳をもった生活ができていること」、「住民の認知症への理解が進んでいて認知症の人や家族とまちづくりの様々な協働を行う住民活動が整っていること」、「認知症の人と家族が安心して暮らせる社会資源が整っていること」です。さらにまちづくりを推進する力について、認知症の当事者たちが発揮した力として、著者は以下の3点を挙げています。それは「当事者の孤立を防ぎ仲間との出会いと協働を創る力」、「法制度の創設と改善を促進する働きかけを行う力」、「ネットワークを構築し生活支援の活動を開発する力」です。最後に、上記の認知症の当事者と協働してまちづくりを推進する住民側の力として、著者は以下の3点を挙げています。つまり「住民の組織的な活動を行う力」、「住民の自発的な活動を行う力」、「住民の総合的な地域ケアを行う力」です。
私のまちでも「広島市はいかい高齢者等SOSネットワーク」が運営されています。また認知症サポーター養成事業と認知症カフェについては、以前にこのサイトでも私の活動として記事を掲載しました。「認知症と『歳のせい』のあいだ」、「認知症サポーターになりました」、「認知症カフェに参加して」などです。成年後見制度については、私のまちでは来月に「はじめての成年後見講座」の催しがあり、私はそれに参加する予定です。(中島正博)

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