
『令和6年 人々のつながりに関する基礎調査結果』(内閣府)の報告書が今年4月に内閣府孤独・孤立対策推進室から発表されました。「コミュニティづくり」の観点から、この報告書の調査結果を丹念に吟味すると、いくつか興味深いことが浮き彫りになりました。今回と次回の記事でご紹介します。
この調査では孤立に関することとして、「外出頻度、外出目的、行動範囲、困った時に頼れる人の有無など、不安や悩みの相談相手の有無など、気軽に話せる相手の有無、不安や悩みを相談することについての感情、日常生活における不安や悩みの有無とその内容、心身の健康状態、現在の生活の満足度、スマートフォンの使用時間・必要性」などの質問の調査票を20,000人に郵送して、10,876人から回答を回収しました(有効回答率54.4%)。調査方法の詳しいことは報告書をご覧ください。
この調査の孤独感の把握方法は直接質問と間接質問を使用しています。直接質問は「あなたはどの程度、孤独であると感じることがありますか」と、「孤独」の言葉を直接使用して質問します。回答は、孤独の状況として「1 決してない 2 ほとんどない 3 たまにある 4 時々ある 5 しばしばある・常にある」を選択します。間接質問では「孤独」の言葉を使用せず、「あなたは、自分には人とのつきあいがないと感じることがありますか」などと質問します。そのの質問に対し、孤独の状況として「1 決してない 2 ほとんどない 3 時々ある 4 常にある」を選択します。報告書の回答結果を見ると、被質問者は自分が「孤独」であると認める回答を避けたい心理があるようです。直接質問では、自分が「孤独」であるという回答は、間接質問の回答に比べてかなり少なくなっています。この孤独の状況の回答は、直接質問では「しばしばある・常にある」が4.3%、「時々ある」が15.4%ですが、間接質問では「常にある」が6.5%、「時々ある」が39.2%という結果です。割合の大小の差はあるものの、直接質問と間接質問の回答の傾向は似ています。以下では、報告書の中から、直接質問の回答の集計結果について、私が興味深いと思った内容をご紹介します。
●孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人に関する主な属性別の結果(報告書 p.43-44)
孤独感が「しばしばある・常にある」と回答したのは4.3%です。属性別に見て回答数の多い属性と少ない属性を中心に示すと以下の通りです。
「年齢」では、20歳代7.4%、30歳代6.0%が多く、70台2.5%が少ないです。20歳代や30歳代の若い人で、相対的に孤独感を持つ人が多い傾向が懸念されます。この傾向は、個人主義的な価値観が強くなっている、現代の時代状況と関係があるのではないかと私は思います。
「性別」では、男性4.4%、女性4.2%で大差ありません。
「配偶者の有無」では、未婚8.2%、離別8.0%が多く、死別4.3%、有配偶者2.7%が少ないです。
「同居人」がいるのは3.4%と少ない、いないのは9.0%と多いです。
「仕事」では、失業中10.5%が多く、正規の職員4.8%、非正規の職員3.8%、無職3.8%が少ないです。
「世帯収入」では、100万円未満7.7%が多く、それ以上の収入範囲は4%前後で大差ありません。
「頼れる人の有無」では、いない21.5%が多く、いる2.9%が少ないです。
「相談相手の有無」では、いない21.2%が多く、いる2.7%が少ないです。
「気軽に話せる相手の有無」では、いない24.5%が多く、いる2.7%が少ないです。
「心身の健康状態」では、よくない22.0%が多く、普通2.7%、よい1.3%が少ないです。
「経済的な暮らし向き」では、大変苦しい12.0%が多く、普通2.4%が少ないです。
孤独感の強い4.3%の人々について見ると、「世帯収入」が最も低いカテゴリーと「経済的な暮らし向き」が苦しいカテゴリーの回答数が多いことは、日本社会の所得格差の拡大傾向が懸念材料です。また、心身の健康状態が良くない人の回答数が多いことが分かります。心身の健康状態と孤独感のこの関係は、社会参加や社会的交流の重要性を示唆しています。ちなみに、医師が高齢者に社会参加を促す「社会的処方」(『中国新聞』2025年5月14日付け)のモデル事業が日本でも行われているそうです。
●社会活動への参加状況別の孤独感(報告書 p.24)
孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した全体の4.3%の人の割合は、「いずれかの活動に参加している」で2.9%、「特に参加はしていない」で5.6%となっています。社会活動に参加していない人の方が、参加している人よりも孤独感をより多く感じる割合が大きいのは自然でしょう。社会参加は個人の精神面にも望ましいことが分かります。先述の属性から見た「心身の健康状態」と共通しています。
(注)上記の社会活動とは、①スポーツ・趣味・娯楽・教養・自己啓発などの活動(部活動等含む)、②PTA・自治会・町内会などの活動、③子ども・障害者・高齢者など、家族以外の人の手助けをする活動、④ボランティア活動(PTA・自治会・町内会などの活動/家族以外の人の手助けをする活動)、⑤その他の活動(同窓会活動・宗教や信仰上の活動など)。①から⑤のいずれかに回答があった者を「いずれかの活動に参加している」として集計。
●男女、年齢階級別困った時に頼れる人の種類(報告書 p.26)
「困った時に頼れる人」の種類は、すべての年齢階級について男女を合わせた全体の割合を見ると、大きい順に以下の通りです。①家族・親族96.2%、②友人・知人55.5%、③仕事・学校関係者22.0%、④病院・診療所の医師17.9%、⑤自治会・町内会・近所の人9.6%、⑥行政機関5.5%、⑦社会福祉協議会2.6%、⑧NPO等の民間団体・ボランティア団体1.0%です。
次に「困った時に頼れる人」の種類(①から⑧)を年齢階級別に特徴を見ると以下の通りです。
①「家族・親族」は男女ともに、すべての年齢階級において最も大きい割合(92.9%以上)です。女性の方が割合はわずかに高くなっています。
②「友人・知人」は16歳~19歳の男性81.6%と女性87.8%であり、年齢階級がさらに上がると男女とも割合は漸減して、70~79歳の男性42.2%と女性51.2%になります。80歳台以上になると男性27.2%と女性34.2%に急減します。
③「仕事・学校関係者」は16歳~19歳の男性34.0%と女性35.1%から、年齢階級が上がると男女とも少し増減があります。40歳代で男性40.7%と女性35.1%がピークになり、男性60歳代22.3%と女性50歳代26.4%まで減少します。年齢がさらに上がると男女共に70歳代に急減して、80歳代以上になると男性2.7%と女性0.6%になります。
④「病院・診療所の医師」は50歳代未満では男性8.9%以下、女性13.5%以下です。高齢になり病気が増える60歳代から80歳代以上にかけて、男性は21.8%から33.3%に増加して、女性も18.9%から28.9%に増加します。若い時は男性の方が女性よりも割合が小さく、高齢になると男性の方が割合は大きくなります。
⑤「自治会・町内会・近所の人」は男女共に16歳~19歳1.4%から増加し、50歳代男女ほぼ同じで5.0%、60歳代9.9%から80歳代以上20.2%にかけてさらに増加します。すべての年齢階級を通して男女の差はほとんどありません。
⑥「行政機関」は男性60歳代8.3%から80歳代以上6.4%、女性60歳代5.3%から80歳代以上3.8%にかけて、他の年齢階級よりも割合が比較的大きい。40歳代以上では男性の割合の方が女性よりもわずかに大きいです。
⑦「社会福祉協議会」は50歳代以下の年齢階級では2%未満の小さい割合です。高齢になると割合は漸増して、70歳代では男性4.1%と女性5.2%、80歳代以上では男性5.8%と女性8.8%になります。
⑧「NPO等の民間団体・ボランティア団体」は男女全体で1.0%という割合から分かるように、男女ともにすべての年齢階級を通して割合はごく小さいです。「NPO等の民間団体・ボランティア団体」は男女全体で1.0%という割合から分かるように、男女ともにすべての年齢階級を通して割合はごく小さいです。
「友人・知人」が「困った時に頼れる人」になるのは、男性よりも女性の方がすべての年齢階級において10%くらい多くなっています。友人・知人は男性回答者よりも女性にとって頼れる存在のようです。「困った時に頼れる人」として④の「病院・診療所の医師」が4番目に多いのは意外ですが、年齢階級別の割合で分かるように、高齢者にとって医師は身近な存在です。⑤の「自治会・町内会・近所の人」との交流が60歳代から増え、地域の人びとが頼れる存在になることは納得できます。できればもっと若い頃から、地元の人びととの交流できる仕組みがあれば良いと私は思います。それを可能にするには日本社会の働き方改革が必須です。⑧の「NPO等の民間団体・ボランティア団体」は専門的で限定的な分野において、「困った時に頼れる人」になっていると私は推測します。それで割合が小さいのではないかと思います。
今回の紹介はここまでにして、次回は不安や悩みの有無別の孤独感、他者へのサポート意識別の孤独感、スマートフォンの使用時間(画面を見る時間)別の孤独感、孤独感別の生活満足度などについて残りを紹介します。(中島正博)