高齢者のフレイル予防と地域づくり

出典:東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢先生講演「フレイル予防セミナー」配布資料

広島市西区の「フレイル予防セミナー」(令和7年7月15日)に参加しました。講師は東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢先生です。セミナーでは多くの学びがありましたが、講師が最も強調した点についてご紹介します。なお高齢者の「フレイル」とは老化による心身の衰え(あるいは虚弱)のことです。

先ずフレイル予防には三つの柱があります。それは栄養摂取身体活動社会参加です。第一の栄養摂取は食事と口腔機能の維持です。栄養は適切なエネルギー、多様な食品の摂取、タンパク質、ビタミンDなど。口腔機能の維持は歯科受診や口腔体操などのオーラルフレイル予防を含みます。第二の身体活動は生活での活動量を増やし、有酸素運動や筋トレをすることです。第三の社会参加は趣味や学習などの文化活動、ボランティア活動や就労、友人や地域の人と交流することです。

第一の栄養摂取で大切なことは沢山ありますが、今まで一般にあまり認識されてこなかったことに絞ります。高齢になると栄養摂取について常識や考え方を変える必要があるようです。いままではメタボ予防のためにカロリーの摂り過ぎに注意していました。それは糖尿病など生活習慣病の予防のためです。しかし、高齢になるとカロリー制限よりも、適切なエネルギーと高たんぱくとビタミンDの摂取に留意が必要ということです。

カロリーの摂り方を変えるのは、高齢者に多い病気や症状が筋肉の衰えと関連しており、筋肉をできるだけ減らさないようにするためです。加齢によって1年間に筋肉は1%ずつ減り、入院期間中の1日間に筋肉は0.5~1%ずつ減り、高齢期で2週間寝たきり生活をするとなんと7年分の筋肉を失うそうです。私自身は70歳ころから筋肉の衰えを自覚し始めました。その頃、何度も転倒して肩の腱板を傷つけたし、椅子から立ち上がる時でさえバランスを崩しそうになりました。スポーツジムに通ってほぼ毎日運動をするジムの知り合いでさえ、口をそろえて75歳前後からの心身の衰えを感じてきたと言います。私も毎日運動をしているにもかかわらず、特に足の筋肉の衰えを感じています。それがサルコペニア(筋肉減弱症)というものでしょう。悲しいかな!高齢者にとって普通の運動では筋肉を増やすことは無理で、できるだけ減らさないことが現実的な目標のようなのです。

健康状態を示す数値にBMIがあります。BMI(ボディマス指数)は、体重(kg)を身長(m)の二乗で割った値で算出されます。BMIの範囲とその一般的な健康評価は、18.5未満が低体重、18.5~24.9が標準体重、25~29.9が過体重、30以上が肥満です。高齢者の場合、この健康評価の考え方から脱却する必要があると飯島勝矢先生が言われました。この従来の考え方に従うと、標準的とされるBMIの数値でも、高齢者フレイルによってサルコペニア(筋肉減弱症)の人を見逃す可能性が高いのです。

それを示すのがこの記事の冒頭にある写真のグラフです。このグラフが示す死亡リスクを見ると、男性の「死亡リスク」が最も低いのはリスク=0.94のBMI26の辺りです。これは従来の健康評価では過体重の範疇に含まれます。セミナーの配布資料には、AさんとBさんの足のふとももとふくらはぎのCT断面像による筋肉量(面積)の写真があります。Aさんはやや肥満でBMI26.0、Bさんは中肉中背でBMI22.3です。Aさんの筋肉は十分ありそうですが、Bさんの筋肉は小さくなっていること(サルコペニア)が写真から分かりました。

これらのことから、飯島先生は高齢化するとメタボ予防からフレイル予防へ向けて、「年齢別カロリー摂取」という考え方の変更が必要であると訴えました。65歳辺りまでは過栄養・メタボの予防、65歳~75歳辺りまでは過栄養か低栄養について個人対応をして、75歳過ぎからは低栄養とフレイルの予防が必要だそうです。この年齢にはもちろん個人の幅があります。記事の前半に書いた「適切なエネルギーと高たんぱくとビタミンDの摂取」というのは、フレイルやサルコペニア対策として筋肉を養うためだったのです。先生はそのために1日2食以上で肉か魚の摂取を勧めています。


最後にこの記事のタイトル「地域づくり」について一言。飯島先生は地域づくりとフレイル予防の住民活動を指導しています。高齢者のフレイル予防のために、高齢者のボランティアが高齢者住民のフレイルをチェックする活動です。これは前半に書いたフレイル予防の三つの柱の第三、社会参加でもあります。全国各地108自治体でフレイルサポーター活動が導入されているそうです。(中島正博)

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