
災害時の避難所の運営は難しい課題です。災害時に諸事はマニュアル通りに運ばず、自治体の対応は混乱状態に陥るかも知れません。数百人が集まる避難所の運営は無秩序に近い状態になりやすく、避難者の不安や困難な生活環境は災害関連死の原因にもなります。過去の避難所の運営の事例をみると、避難者たちが自主的で主体的に取り組むことで、比較的スムーズな運営が可能になったようです。今回はそのような事例をNHK地域づくりアーカイブスから2件ご紹介します。事例1は東日本大震災の時の石巻市石巻高校の避難所、事例2は熊本地震の時の西原村河原小学校の避難所です。
事例1:避難者を班に分けて避難所運営を助け合う。東日本大震災の被災地宮城県石巻市石巻高校の避難所で、リーダーを務めた松村善行さんの経験から、避難所運営のヒントを探りました。高校に400人が避難。行政やボランティアの支援は十分ではなかった。松村さんは5カ月間リーダーを務めた。避難所の混乱した状況の中で先ず避難者の班づくりをした。避難所で人が寝ている場所ごとに、小さな区画(10家族20人程度)を設定。言わば小さなコミュニティつまり繋がりづくりをした。いろんな地区から避難しており、知り合いばかりではないので、グループ(班)をつくって馴染みになり、互いに助け合いができる関係づくりが班の目的。各班で班長・副班長を出してもらい、役割を分担。食事や物資の配給の際に、班の代表が配給を受け取るので、長い列が不要になり確実に避難者に届く。
行政との窓口も一本化できた。毎朝、班長が集まってミーティングをして、リーダーが取りまとめて行政担当者に伝える。行政からの連絡事項も班長が全員に伝えて、情報の共有がスムーズにできた。班長が班の一人ひとりの困り事を聴き、声を上げにくい人のニーズを汲み上げた。行政は混乱していてすべてのニーズには応えられない。朝のミーティングでは自分たちでどう解決(共助)するかも話し合った。
健康維持のためにみんなで体操。避難所全体では難しい体操も班では可能だった。みんなで掃除をすることも日課。トイレ掃除も班ごとに分担。体を動かすことがエコノミークラス症候群の予防にもなる。網戸が無かったので網を買ってきて、自分たちで網戸をつくり虫が入るのを防止。カーテンがなく日差しが眩しいので布を設置。行政に要望しても、自分たちで解決するより、かえって時間がかかることもあった。自分たちでできることは、極力自分たちでするよう心がけたので、自主的な行動が生れた。班の中で話しやすくなり、避難者の体調の変化などにも気づけるメリット。さまざまな不安がある中で、みんなが話せる繋がりが求められていた。
避難所運営が上手くいったケースと、そうではないケースの格差が石巻市にあった。「石巻市避難所ネットワーク会議」を避難所の代表で構成して、物資の融通や運営方法などを話し合い、避難所の間の格差解消を図った。避難所以外や車中泊の避難者は移動できるので、孤立して他人との繋がりは作りにくいが、近くに泊っている人たちの間でグループを作って、協力しあうことが望ましい。みんなのために動けることが自分の力にもなった。
事例2:避難者自身の助け合いで危機を乗り越えた熊本県西原村。熊本地震発生直後の避難者は18万人。益城町には避難所運営のマニュアルがなく、町の職員は寝床やトイレの設置に四苦八苦。段取りが悪いと多くのクレーム。しかし隣の西原村ではスムーズな避難所運営ができた。西原村の人口は7千余人。全世帯の6割が全半壊の壊滅的な被害。避難所として河原小学校が3カ月間使われた。
当時、避難所運営に携わった人たちに話を聞いた。避難所のリーダーを務めたのは西原村役場の職員。役場は運営を住民たちに任せた。行政からの支援を待つ避難所ではなく、自分たちが如何にして生き延びるかが大切。800名がこの小学校に避難。元自衛官や看護師など、住民が持っている得意分野を生かして避難所の運営をした。役割分担をする際に参考にしたのは、村が事前に作っていた住民一人ひとりの職業が記された名簿。炊き出し係は小学校の給食の調理人、配膳係は大人数の食事の準備ができる元自衛官。断水していたトイレの水は、近くの農業用水路の水をバケツリレーして解決。助け合いの活動が人々のやりがいを生み、不安を抱える避難者たちを明るくした。みんなで運営しているからクレームがでない。
みんなで危機を乗り切ることに役立ったのが防災訓練。13年前から2年に一度の防災訓練を村人総出で行っていた。どんな訓練をするか住民が話し合って決めていた。自分たちのことを自分たちで考える機会が防災訓練だった。地元の人を巻き込んで実施して、行政主体ではなく住民の仲間が参加するから、みんなが訓練に参加した。
事例から分かること:避難者を小さなグループ単位、言わば顔見知りの臨時のコミュニティを作って、物資の配給や連絡を確実にする方法です。数百人が避難してカオス状態になりやすい避難所に、先ず秩序を作り出すための最初の段階です。避難所での生活は集団生活です。班の中で顔見知りになれば、互いに話しやすく不安が和らぎ、避難所の生活で助け合いの気持ちが働き、食事、掃除、ストレスを和らげる環境改善など、避難所の運営にも協力的になれます。熊本県西原村では避難所の運営を住民に任せました。行政からの支援を受け身で待つのではなく、避難者たち自身が如何にして生き延びるか、という能動的な態度を大切にしました。住民主体の運営を可能にしたのは、やはり住民主体で長年行ってきた防災訓練でした。西原村では共助の意識が強く、村の防災活動には学ぶことが多くあります。
上記の事例の記述は、NHK地域づくりアーカイブス「避難所運営のヒントを東北の被災地から学ぶ」(2016年放送)と「住民が主体的に避難所を運営」(2016年放送)を再生し、その解説や会話の音声を筆者が文章にして掲載しました。なおNHK地域づくりアーカイブスは一部を除き2025年9月末をもって終了しました。避難所運営に関する事例は筆者が作成した「防災減災のための地域づくりNo.3避難所運営」に多数掲載しています。
(中島正博)