第7回 公園再生、地縁団体、そしてコミュニティづくり~町内会脱会とその後の物語二つ~


今回は連載の最終回です。既存の町内会の在り方に反発して、一つは町内会を脱会した住民たち、二つ目は町内会とは別の活動を始めたグループ、という二つの例が辿った対照的な物語を紹介します。前者は広島市中区光南の町内会であり、後者は広島市中区江波栄町の「江波町地球環境を考える会」です。その後両者はどのような展開を辿ったのでしょうか。

最初に中区光南町の例を紹介します。住民が町内会を脱退した「事件」は今から30年足らず前に起きました。三丁目の光南公園近くの120世帯のほとんどのマンション住民は当時町内会に加入していました。しかし「町内会は飲み食いばかりで意味が無い」とマンションの新住民が町内会の在り方を批判しました。結局、町内会長と考えが合わず、マンション住民が町内会を脱会したのです。その結果、そのマンション居住者の町内会加入は10~20%になりました。その後に町内会長が交替して、脱会した人たちが町内会に戻り、そのマンション居住者の町内会加入率は70%位に回復しました。

マンション居住者が町内会に復帰した結果、2009年の時点で中区光南三丁目から六丁目に住む616世帯の内、344世帯が町内会に加入していました(加入率56%)。三丁目の大きなマンション(イメージ写真)の居住者は120世帯で、その内70%が町内会に加入しています。町内の団体は町内会の他、朋寿会(老人会、65人)、子供会(23人)、女性部、青年部、育成会などです。

2008年度に「身近な公園再生事業」の対象になった、マンションの近くにある光南公園の花壇づくりには、そのマンション住民が多く参加しました。花壇づくりの打ち合わせにも、マンション住民は参加しました。マンション住民の参加が少ない他の町内会が羨むほどです。公園が旧住民と新住民の交流の場を提供したのです。公園がまさにコミュニティづくりに役割を演じたのです。子供もほとんどマンションから、若い活動者もマンションから来ます。戸建住民は若い人が少ないのです。このように光南公園は、住民が地域の財産として大切にし、公園の緑地を利用して草花を育てながら、親睦を図っています。すべての世代の人びとが、清潔で美しい公園として安心して遊んで楽しんでいます。それは地域の防犯にも繋がります。

公園の定期的活動として毎月第4日曜日の朝に共同作業をして、次回の打ち合わせをします。参加を促進するためにハードワークを避けるようにしています。毎月の公園の作業は、朋寿会(老人会)が作るカレンダーの配布で周知しています。町民の参加は口コミ(人と人の関係)でも行われます。また町内の広報を利用して、地域の幼児・児童と保護者を交えて行事(6月苗の植え付け、9月の芋の収穫)を行い、互いに顔が覚えられるよう集合写真を撮り無料配布します。町内のお祭りではその収穫物を利用します。

光南町の子供会の主な行事は1年生歓迎会、夏休みのラジオ体操、クリスマス会、卒業記念会などです。朋寿会(老人会)には60歳以上の町内人口の20%が参加しています。一般に老人会の会員が減少していますが、その一因は会長などの役員のなり手がいないからです。老人会が楽しいものになれば参加者は増えるので、地域の交流を増やし老人会のイメージを変える必要があります。

光南町では、マンション新住民の町内会脱会という事件を乗り越えて、新住民と旧住民の交流が進んでいます。しかしすべての町内の住民が互いに抵抗なく、あいさつできるようになるまでにはまだ時間がかかりそうです。

中区江波町江波山公園入口広場

次に広島市中区江波栄町の「江波町地球環境を考える会」の事例です。この町では江波栄町町内会の活動が弱体で、町内会の先の展望が暗いと失望した人たちが、ボランティア団体「江波町地球環境を考える会」を1998年に立ち上げました。江波栄町の住民が中心になり当初15名で始めて、メンバーの若い人は65歳でした。2009年時点でメンバーは31名、活動の参加者は平均すると14~15名でした。

団体は設立以来、江波栄町の子供会や江波小学校を対象にして、数多くの活動を続けています。一般の町内会で定番になっている行事だけではなく、子供たちに喜ばれる活動を苦労して考え出しています。2008年から2009年には毎月1~2回の活動をしています。例えば、相撲の土俵を作って小学校に設置、防火パトロール、小学校にタイムカプセルの埋設、江波公園入口の整地・草取りと枝垂れ桜の植樹、中央公園の環境フェスタに参加、子供会との餅つき、江波山公園入口広場にベンチ4脚を設置しクロガネモチの苗木を植樹、子供会の夏休み工作教室とソーメン流し、江波山の「母子愛の像」を清掃、児童館で工作指導、花壇の植え替え、ユーアイ広場にカカシを展示、ユーアイ広場の清掃、江波学区子供会文化祭に参加して歌を披露するなど、非常に多彩です。

これらの活動に対してさまざまな表彰やメディアによる報道がされました。例えば、ひろしまホームテレビ地球派宣言で紹介、数回の中国放送RCCエコロジーファンドのグリーン賞や奨励賞、NHKお好みワイド番組で紹介、活動の様子を中国放送で放送、安全な町づくり功労団体として広島市より市長表彰され広島市のホームページで紹介、市の広報紙「市民と市政」での紹介などです。

多彩な活動にも関わらず、このボランティア団体には悩みがあります。この団体の誕生の経緯が原因だと思われますが、町内会組織とこの団体のコミュニケーションが皆無なのです。そのためにこの団体の活動への参加を町内に呼び掛け、周知するための回覧板を利用できません。町内会の伝達の仕組みが使えないのです。団体のメンバーによる口コミによる情報伝達しかありません。活動をしている時にたまたま発見されて受賞に繋がり、受賞などで活動が知られることはあるものの、活動を地域の人々に知らせる手段の確保が課題です。次にボランティア活動の継承の課題があります。団体メンバーの高齢化に伴い、若いメンバーを増やしリーダー的な後継者づくりが必要ですが、それが実現していません。町内会は加入率が減少しても、その存在は一応続きますが、ボランティア団体にはその保証がないことが最大の問題です。

これまでの連載記事で強調してきたように、町内会にとって一般にボランティア団体は大変ありがたい存在です。町内会の活動をボランティア団体が支えたり、活動の一部をボランティア団体に任せたりすることもできます。町内会活動は好きではないが、ボランティア活動なら参加したいという人もいます。町内会がボランティア活動を推奨して、逆に町内会がボランティア団体に支援される、という関係が望ましいでしょう。町内会、老人会、子供会などの地縁団体と、ボランティアやクラブやサークルなどの地域を越えた団体のネットワークづくりが課題です。(中島正博)

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