高齢者との交流で若者の家賃が半額に

一人住まいの高齢者は2020年に671万世帯で、2040年には896万世帯と推計されています。つまり高齢世帯の40%が一人暮らしになると推計されています。ところが一人住まいの高齢者のアパート入居は難しいのです。高齢になると賃貸住宅を借りにくくなる住宅弱者になってしまう現状があります。その理由は部屋での死亡事故です。発見が遅れて孤独死を嫌がる大家さんが多いのです。貸主の7割が高齢者の入居に拒否感を持っているようです。

そんな現状を緩和するために高齢者を歓迎する「ソーシャルアパート」が最近できました。高齢者と若者がwin-win関係になる仕組みをつくったのです。高齢者は通常の賃貸料の1.5倍、若者の賃貸料は半額です。高齢者と若者がwin-winになる仕組みは2つのルールを守ることです。そのルールとは若者の「毎朝のお出かけ前、階下に入居する高齢者に『行ってきます』と声掛けすること」、それと「月に1回、入居者を集めたお茶会への出席」の二つです。声掛けと言っても日常の些細な話で構いません。賃貸料の差額は高齢者がスムーズに入居できて、そのアパートに安心して住めることで相殺されます。若い人は賃貸料半額の特典を得て、互いに入居者の顔を知り合うコミュニティの一員になることもできます。

この仕組みは単なるお金の問題のみではなく、コミュニティの人たちがお互いに依存し合う関係が生まれることでしょう。一方的に高齢者を見守ることだけでなく、宅配便を預かってもらったり、ゴミ置き場に重い新聞を運んであげたり、高齢者に人生の先輩の知恵を授かったり、料理を教えてもらったりと、さまざまな関係が生まれる可能性があるでしょう。ルールは切っ掛けに過ぎず、歳が離れているだけの友達の関係なのです。

1階の高齢者用の部屋は20平方メートルのワンルームで、段差はありません。車いすのままで移動できます。2階の若者の毎朝のお出かけ前は1階の高齢者に声掛けをしますが、見守りはアナログ的な声掛けだけでなく、照明の使用、水道・トイレの振動などを感知するデジタルのシステムが1階高齢者用のアパートにあり、録音・録画の機器はありません。2階の若者に見守りのすべてを任せてしまうと責任が重過ぎるからです。主なコンセプトは「高齢者の生きがいに繋がる、人と人の交流を通して見守る住まい」なのです。

すべての高齢者や若者がこのような見守りの関係を望むわけではありません。最近の一般の若者や、特にソーシャルワーカーやその勉強をしている学生は、コミュニティに価値を重んじる傾向があるようです。高齢女性と介護職女性のためのシェアハウス、世代を超えて助け合う多世代型アパートの需要もあります。家賃が半分になること以外にもコミュニティに関心がある若者がいるので、この取り組みを知って感銘し、お金以外の部分にも価値を感じているのです。一方的にお世話をするとか、お世話をされる関係にならず、平等になれるのです。決まり事だから毎朝の挨拶も堂々とできるからよい。このようなコンセプトを掲げるアパートは、高齢者と多世代型コミュニティを望む人たちのマッチメイキングをする役割を果たしていると言えるでしょう。

このようなアパートを造る背景には、住宅をベースにして交流を創り出す、シェアハウスの発想があると思います。アパートの設計や家賃や見守りなどについては、いろいろな知恵やバリエーションがあるでしょう。今後、高齢化社会を乗り越えるために、多様な知恵を開発してwin-winの住みやすい社会関係を創り出すことが望まれますし、それを実現できるのが人間のもつ知恵の可能性ではないでしょうか。(中島正博)
参考文献:高齢者と若者の交流をしくみで支えるソーシャルアパート …

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