高齢化社会を乗り切ろう!地域コミュニティの生活支援ボランティア活動

現在進行中の人口の高齢化は日本社会の歴史的な試練ですね。団塊の世代がすべて75歳になる2025年には75歳以上が全人口の18%、65歳以上が30%になります。そして20~64歳以上は全人口の54%です。社会保障の観点から、2050年には65歳以上の一人を支えるのは、20~64歳以上の1.2人であると言われています。1月25日の記事で書いたように、地域コミュニティの健康体操などで健康寿命を確保したいです。社会福祉協議会や町内会などによる見守り活動など、「必要は発明の母」と言われるように、今後いろいろな工夫が考案されて、諸々の方法で高齢者を支える地域活動が増えると思います。

そのような地域活動の一つとして、ボランティアが高齢者・障がい者の生活を支援している、先駆的な活動を紹介します。それは広島市西区井口台団地の連合町内会の一組織としての「井口台生活支援事業部」です。現在、団地の人口は7,366人、世帯数は2,961、高齢化率は20.37%です。約10年前に私はその活動の責任者に会う機会があり、その後の活動状況を知りたいと思い、2月5日に井口台団地を訪問して取材しました。実は、その訪問に先立って、広島市西区社会福祉協議会が主催する「地域活動担い手講座」が2月1日に開催され、その場で生活支援事業部の方が、地域活動の事例紹介として、自分達の活動を発表されました。この記事では、その発表内容と私の取材を合わせて報告します。

彼らの活動の始まりは、2005年に近所の一人暮らしの方から、「網戸が破れたがどこに頼んだら良いのか」、と相談をされた住人が近所の人に手伝ってもらい、みずから網戸の張替えをしてあげたことです。当時、西区社会福祉協議会は地域福祉促進のために、「住民が支え合う」町づくりに取り組んでいました。その取り組みを受けて、井口台では網戸張替えの経験から、「ボランティア活動の組織を作ろう」という機運が生まれました。そしてボランティアバンクが結成され、高齢者・障がい者の生活を支援しようと、井口台生活支援事業部がスタートしました。現在のボランティアは22名で平均年齢77歳です。

これまでにこの事業部が行ってきた主な活動は、この記事の画像のポスターにあるように、庭木の剪定や草取り、庭の水やり、網戸の張替え、家具の移動とその他です。長年のボランティア活動の経験によって、多くの知恵が蓄積されてきたようです。ボランティア活動なのに料金をもらうのは、作業を依頼する人が遠慮をしないための配慮であり、依頼された作業が長時間を必要としても、何人のボランティアが必要であっても、600円以上は受け取りません。依頼人がそれ以上の負担をしなくても良いように、一般の業者の作業でよくある飲み物や菓子などの提供は断る旨を事前に告げておきます。また専門的な知識は要らないそうです。例えば庭木の剪定作業などで不明なことがあれば、パソコンなどで検索して調べれば分かるそうです。またメンバーのボランティアは作業を通して、互いに見よう見まねで、全員が何でもできるようになるそうです。もしできないことがあれば、信用のある適切な業者を紹介したり、業者に合い見積もりを頼んだりするお世話をして、その後の業者の選択は依頼者に任せます。

この支援活動を始めた人たちの動機は、団地で老夫婦のみや一人暮らしの住民が増加し、その人たちの生活上の不便が次第に増えていることが分ったからです。また、詐欺まがいの商法によって、高齢者住民が困った出来事もあり、そのようなことの無い住みやすい町にしたいと思ったのです。ポスターでは「何でもご相談ください」と呼び掛けていますが、それは広い意味で高齢者見守りの効果もありますし、悪質な業者から守る意図もあります。ボランティアの人たちの最大の動機は、彼らがこの井口台団地を愛しており、住民が歳を取っても安心して暮らし続けられる町にしたいとの願いなのです。

「支援する側」と「支援される側」の双方にとって、支援は好ましいことです。つまり支援される側には、支援してもらう「ありがたさ」、支援する側には感謝されることが「喜び」になります。しかし個人主義の現在の都市社会では、その感覚はまだ一般的な文化ではないのでは、という危惧が私にはありました。一般に「生活支援」の言葉は「してあげる」、「してもらう」の立場の違いが意識されやすいように思いました。つまり「してもらう」側には、遠慮、負い目、借りを作る、上下関係的な下に見られる、プライバシー保護、などの意識が働きやすい気がします。料金を支払うので、ドライに支援を求める人ばかりではないでしょう。また、プライバシーを守りたいという意識、家の中を見られたくない、家の中に他人を入れたくない、という意識が多少あると思います。

しかし私の心配は杞憂であることが分りました。依頼人の中には申し訳なさそうに話す人もいるそうです。しかしボランティアの人たちは作業を楽しんでしている、彼らの趣味の延長のようにしているのです。実際にボランティアの縛りは弱く、自分たちの私的な生活を優先して、余裕があれば作業に出てきます。また時には、なごやかに冗談も言いながら、楽しんで作業をしているよう意識的に振る舞って、依頼人の遠慮を取り除く配慮もします。そうすると依頼人は気が楽になり、「来年もお願いします」とリピーターにもなれるのです。依頼人は一人暮らしの高齢女性が多く、自分一人では解決できず困っているから頼むのが実情であり、負い目や上下関係的な意識は一切ないそうです。ポスターに示した「生活のお困りごと」の作業内容を見ると、高齢女性が一人ではやりにくいものです。作業のために訪問したら、依頼した高齢者が若い息子などと、一緒に暮らしていることが分った場合、作業をするかどうかはその場の状況で常識的に判断するそうです。行政サービスではなくボランティア活動だからこそ、画一的ではない状況に応じた判断が可能なのでしょう。またプライバシーや負い目の意識を感じる人は、自分で業者に依頼するので、ボランティア活動による生活支援事業との棲み分けができているようです。

ボランティア活動の知恵をいくつか紹介しました。最後に紹介するのもその知恵の一つでしょう。事業部では「何でもやります」という姿勢で、依頼があった時に「出来ません」「駄目です」、という断りの言葉は絶対に使わないし、年齢も聞きません。ボランティアが待機している集会所で、依頼の電話を受けてから3日以内に、2人以上のボランティアが依頼者を訪問して、作業日などの打ち合わせをします。現場で会って話して初めて適切な対応ができるし、高齢者見守りの役割も果たせるのです。ボランティア活動を始める前には、いろいろと心配することはありますが、実際に活動を始めると、人は知恵を働かせて解決できるものだ、ということが最大の学びでした。(中島正博)

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