地域コミュニティで子供を育てるこども食堂

先日の1月27日に、公益財団法人ひろしまこども夢財団が主催して、広島県呉市の広市民センターで行われた、「広がれ、こども食堂の輪全国ツアーinくれ」に参加しました。社会活動家で法政大学教授の湯浅誠さんの基調講演などを通して、私に良い学びがありましたので共有します。

日本では6人に1人が貧困家庭の子供、という全国統計が明らかになった頃から、「こども食堂」が広がり始めました。十分な食事がとれない、貧困家庭の子供への対策として、こども食堂を始めた元祖のような人が広島におられます。しかし、こども食堂の全国的な広がりとともに、その目的は多様化しました。こども食堂を開催する頻度は、全国で多い順に月に1度、月に2度、週に1度だそうです。食事の栄養に限って考えれば、多くのこども食堂の効果は栄養の問題を解決できるほど、大きいとは思いません。しかし大人や子供を含めて、地域の人たちが食堂で知り合う機会になるので、コミュニティづくりの効果は見逃せません。昨年私がこのサイトに書いた「カフェで交流文化を促進する~充実してきた地域コミュニティの交流」の記事では、こども食堂におけるこの地域交流の効果に言及しました。しかし、私の記事は「交流文化の促進」の効果だけで、子供の貧困問題にどのような効果が期待できるか、まで内容が及んでいませんでした。しかし湯浅さんの基調講演を聴き、私の考えは子供の貧困問題に向けて、以下に述べるようにさらに進みました。

こども食堂に来るお客さんは「貧しい家庭の子供」、と限定することはできません。そんな限定をすると、こども食堂に来て欲しい子供は、食堂に入りづらくなってしまいます。だから食事の料金を例えば子供は100円、大人は500円と設定して、誰でも来られるようにしています。そのようにして子供や大人を含む、みんなの居場所を提供します。その結果、多世代や異年齢の交流が生まれます。共働き家庭、核家族、シングルマザー(ファーザー)家庭で起きがちな、孤食の問題に対処できるのです。また当人の家族とは違う、いろんな大人や子供と接する体験ができるのです。それによって子供の貧困問題を含め、どのような効果があるのでしょうか。

いろんな人と接して、いろんな体験をすることによって、子供の価値観が広がり、子供の人生の選択肢が広がる、と湯浅さんは言われます。孤食を重ねていると、家族とのコミュニケーションが限られます。貧困だとお金が必要な行事に子供が参加できません。「一人ぼっち」になります。友達や近隣の大人との繋がりが少ないと、親の価値観のみに子どもが影響されがちになります。その結果、親が貧困であると、その貧困を克服するために有効な価値観が、子供に伝わりにくくなります。多世代の交流によって、自分の知らなかった何かに子供が気付き、子供に何か変化のスイッチが入ることが期待できるのです。例えば子供の知らない生き方、社会、職業、経験などを大人が話してくれたら、子供にはハッとする大きな学びになるでしょう。キーワードは「価値観を広げて将来の選択肢を増やす」ということです。それにより親から子への貧困の連鎖を断ち切る可能性が生まれます。一般的にはこども食堂によって、食事の内容が日常的に豊かになったり、経済的な支援が得られたりする訳ではないけれども、こども食堂には地域のコミュニティで子供が育つのを、応援する役割があるということでした。

こども食堂のような仕組みは、人と人の絆が希薄化した現代だからこそ生まれました。ひと昔前は近隣のコミュニティの中で、自然に異年齢や多世代の交流がありました。子供は地域社会の中で育っていましたが、今では子供たちが、自分の家の外で一緒に遊ぶことは少なくなりました。また共働きの親が子供会の役員をしなくなり、町内の子供会は全国的に縮小傾向です。こども食堂は子供会の現代版の一つになります。また全国的に老人会も縮小している今、子ども食堂は老人会の現代版と言うと言い過ぎでしょう。しかし事実として、多くのこども食堂では高齢者の参加も顕著なようです。また必ずしも「〇〇こども食堂」という名前を付けている訳ではありませんし、高齢者はこども食堂に必要不可欠な人たちです。ある地域のこども食堂をタイプに分けると、子供への「食事提供型」は2割で、地域の人びとの「共生型」が8割だったそうです。

すべての子供がこども食堂にアクセスできるには、小学生が歩いて行ける場所、つまり小学校区に一つのこども食堂を作ることが目標になっています。全国21,000の小学校区に2018年時点で2,268カ所のこども食堂があるそうです。都道府県別では沖縄県の271小学校区に127のこども食堂があるので、充足率は全国最高の46.9%となり、平均して二つの小学校区に一つのこども食堂が存在することになります。滋賀県が2位で42.6%、続いて東京都25.2%、京都府24.2%、そして広島県は37位で5.4%です。各県にはこども食堂に代わる地域的な特性があるので、必ずしも小学校区に一つのこども食堂の存在が、絶対的な基準ではありませんが、一つの目安にはなるでしょう。そして、地域的な相互扶助の伝統がある沖縄の充足率が最高である現状に、私は納得する思いがしました。湯浅さんは私たち参加者に対して、「近隣のこども食堂にぜひ行ってみて欲しい」と希望されました。

湯浅さんの基調講演の後、呉市の「かしの木こども食堂」と広島市安芸区の「矢野の家」の紹介があり、最後に「こども食堂の作り方」として、場所の確保、開催日(頻度)、ボランティアの確保、食材の確保、資金の確保、食堂の名前、集客、安全・衛生など、こども食堂を作るに際して、必要になるプロセスに関する紹介がされました。

皆さんの近隣にこども食堂はありますか?そして入ったことはありますか?恥ずかしながら、この記事を書いた私はまだ行ったことがありません。私は近場で「共生型」のこども食堂を探して入る責任があると思います。さらに新たな学びがあればこのサイトで報告します。(中島正博)

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