広島市はさまざまな市民活動を促進する施策を実施しています。市民活動が盛んになればコミュニティも活性化します。今回紹介するのは「高齢者いきいき活動ポイント事業」です。この高齢者いきいき活動ポイント事業は、広島市在住の65歳以上の高齢者が行う、健康づくりやボランティア活動などの実績(ポイント数に換算)に応じて、その高齢者に奨励金を支給するものです。私が参加している「児童の見守り活動」は、このポイント事業の対象になっています。以下の表は健康づくりやボランティア活動の例です。
この事業の背景には、高齢者が社会活動に参加することは本人の健康を促進する、という事実があります。高齢者が自宅に引きこもっていると、足腰など体は弱り会話も減るし、介護や病気のリスクが増し、結果的に市の財政負担になります。従って、市民の生きがいに貢献し、健康寿命を延ばし介護の予防をすることと、財政負担を軽減するという一石二鳥を狙った施策なのです。先の表の中に、健康のチェックをする「特定健康診査の受診」が含まれているのはそれが理由です。因みにこの事業の担当は、広島市の健康福祉局高齢福祉部高齢福祉課です。
表の中の左の高齢者が自らの健康づくり・介護予防に取り組む活動は1ポイント、その活動の支え手となるボランティア活動に2ポイント、特定健康診査の受診に2ポイント、表の右の子育て支援など広島市が指定するボランティア活動に4ポイントが獲得できます。高齢者はこれらの活動をして、ポイント手帳に(記事の写真)にスタンプを押してもらいます。1ポイントを100円に換算して、年間の上限を1万円として奨励金が広島市から支給されるのです。高齢者にとって活動への参加やボランティア活動は自主的に行うものですが、奨励金があれば社会参加のきっかけになるようです。私が参加する町内の太極拳でもスポーツジムでも、スタンプを押してもらうのは見慣れた風景になっています。
この高齢者いきいき活動ポイント事業は2017年9月から始まりました。その後、この事業の効果を検証するアンケート調査が行われ、開始した2017年9月から2018年8月までの実績の調査結果が公表されています。事業に参加している活動団体は10,642件、受診する医療団体は959件でした。ポイント事業の対象者である高齢者は、全体で180,970人(調査では70歳以上)ですが、事業に参加して奨励金を受け取るために、ポイント手帳を市に提出(ポイント活動の参加者)したのは28.1%の50,856人でした。ポイント事業のアンケート調査の結果をかいつまんで以下に紹介します。
ポイント事業の活動団体は文化(趣味)サークルの割合が24.2%と最も高く、次いで町内会・自治会が19.3%、スポーツサークルが12.9%、老人クラブが8.5%、その他はボランティアグループやフィットネス・スポーツクラブ等でした。団体の規模は6~20人の規模が半数を占めています。ポイント事業の開始前後を比較すると、参加者へのアンケートでもさらに活動団体へのアンケートでも、健康づくり・介護予防活動の頻度が高い「ほぼ毎日」と「週2~5回程度」の割合が増加し、ボランティア活動の頻度が高い「ほぼ毎日」と「週2~5回程度」「週1回程度」「月1~3回程度」の割合が増加しました。ポイント事業が高齢者の社会参加を促進し、活動団体をも活性化したことが分ります。
健康づくりや介護予防活動を促進した効果を見ると、「体力」、「運動時間・量」、「歩行時間・量」について、ポイント事業への参加により、「増えた」または「やや増えた」と回答した者の割合が、それぞれ46.3%、48.0%、44.2%であり、健康づくりにプラスの効果が表れています。このような効果は私の住む町で実施している「百歳体操」の参加者を見ても良く分かります。さらに、体調への効果を表す介護サービス利用回数や通院回数が「変わらない」との回答が大半を占めますが、「改善した」「やや改善した」と感じているものが約30%いることも分かりました。事業開始前後の介護度の変化は、介護度が悪化した者は参加者が3.36%、非参加者が11.32%、介護度が改善した者は参加者が16.47%、非参加者が13.1%でした。事業参加の有無と1人当たり医療費を見ると、参加者よりも非参加者が2倍程度高くなっています。介護費については参加者よりも非参加者が3倍程度高くなっています。ポイント事業が始まった年の実績ですが、事業効果の検証としてポジティブな結果と言えそうです。
一般的にコミュニティづくりに含まれる住民は広範だし、コミュニティづくりの効果も多岐にわたるので、町内会への参加を促進するというような施策は具体化しにくいでしょう。しかし紹介した広島市の高齢者いきいき活動ポイント事業は、住民の高齢者層全員に直接働きかけ、住民の参加に分かりやすいきっかけ (奨励金)を提供しました。これはコミュニティづくりの施策としても、効果的ではないかと思いました。コミュニティづくりそのものではなく、コミュニティ活性化の効果を狙うことが有効ですね。(中島正博)