災害被災者の生活再建を支援する

災害ケースマネジメントのイメージ 出典:鳥取県社会福祉協議会

地震や洪水などの災害では居住家屋などが損壊の被害を受けます。その被災者の生活再建を支援する事例を紹介します。聞き慣れない「災害ケースマネジメント」という手法が最近は用いられています。事例1は、東日本大震災後に石巻市のボランティアによる災害ケースマネジメントと、西日本豪雨の後に倉敷市の行政が関わった災害ケースマネジメントです。事例2は、西日本豪雨の後にボランティア団体が生活再建の支援を行った活動です。二つの事例は以下の通りです。

事例1:専門家同士の連携で生活支援をする災害ケースマネジメント(2021年放送)宮城県石巻市は東日本大震災で甚大な被害を受けた。ここを拠点に「災害ケースマネジメント」をいち早く手掛けてきた、ボアランティア団体「チーム王冠」の代表は伊藤健哉さんです。 災害ケースマネジメントはボランティア団体などが被災者の元に出向き、抱える事情や悩みを聞いて課題を整理します。ポイントは専門家同士が連携して、その人に最も相応しい支援計画を立て生活再建へと導くこと。専門家は弁護士、フードバンク、建築士、ファイナンシャルプランナー、医療関係者、福祉関係者、大工など。それぞれの専門家はボランティアで参加します。

「地震で死ぬ思いをした。役場に電話したけど、断られたから終わりかと思った。それきり一切電話しない」と被災した女性は言う。この女性の住む地域は津波を免れたため、行政から見逃され、被災者とすら見做されていなかった。医師の提案を仰ぎ、女性を町の災害公営住宅に入居させたい、という提案を町に行った。町からは被災者としては認められないが、入居させる道を探るという回答を得た。「災害は家を壊すだけではなく、生活そのものを壊す。その人その人で必要な支援が違ってくるので、災害ケースマネジメントという考えかたで取り組まなければ、被災者の再建とか復興はない」と伊藤さんは言う。

災害ケースマネジメントの担い手として、自治体が関わるケースも生まれている。西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市真備町では、倉敷市が支援体制を整えた。「倉敷市真備支え合いセンター」が市の予算で被災した地区のすべての世帯を調査し、支援が必要な人を見つけ出した。その調査を元にボランティア団体が被災者を訪ねて必要な支援を行った。

この災害ケースマネジメントの取り組みをさらに前に進めているのが鳥取県。5年前大きな鳥取県中部地震に見舞われた経験を踏まえ、平時からの準備を整えることにした。今年4月、全国で初めて常設の組織「鳥取県災害福祉支援センター」を立ち上げた。災害が起きる前から、被災者の把握方法や福祉スタッフの派遣方法など、体制(冒頭の写真)を構築してその日に備える。(NHK動画リンク取り残された被災者を救えるか」)

事例2:将来の水害や住宅再建資金の不安を解消する取り組み(2019年放送)岡山県真備町は2018年の西日本豪雨で甚大な洪水被害に遭いました。町に戻った被災者は家を建設中の人も含め約4割。壊滅的な被害を受けた農業も再生に向けて動き出している。真備町では米農家の8割が米作りを再開した。復興に向けて動き出した真備町の大きな課題は町の空洞化。多くの被災者たちは住み慣れた地元を離れて、今も仮設住宅などに暮らしている。真備町内にある仮設住宅には650人(271世帯)が入居している。さらに町外の民間アパートを県が借り上げるみなし仮設に暮らす人は4,710人(1,845世帯)。

住民の多くが町に戻ることをためらっているのは、川の堤防工事が終わるのは4年先だからです。倉敷市による住宅再建に向けた課題に関するアンケート調査の回答では、大きい順から、堤防工事の進み具合、住宅の建て替え・修繕の資金不足、工事業者の不足、二重ローンになること、後継者がいないとなっている。水害への不安と住宅再建の資金が大きな課題。その課題を少しでも解決する方法はないかと住民が集まる。住民同士で助け合い避難ができる体制を作ろうと、集会を主催したのは住民の松田美津枝さん。市役所職員や民生委員も参加。

真備町が抱えるさまざまな課題を住民の立場から解決しようとする人たちがいる。「川辺復興プロジェクトあるく」は被災した住民の槇原聡美さんが代表。子育て世帯の住民たちに呼びかけて作ったボランティア団体。「リカバリーカフェ」で被災者たちの住宅再建の不安を解消する取り組み。ファイナンシャルプランナー、司法書士などの専門家を招いて、住宅や教育などの資金計画についてアドバイスを受ける。二重ローンを組んだ人が多くいる。

地域で高齢者や障がい者を支える取り組みもある。「お互いさまセンター」代表の多田伸志さん。町に戻った人も町外のみなし仮設にいる人も、一人で悩まないように支援する。ちらしを配り困りごとの電話相談、病院などへの送迎、日常生活のお手伝いなど、様々な支援をする。スタッフが仮設住宅を訪問し、病院への送り迎えのサービスをする。利用できるのは被災者した高齢者、障がい者、子育て中の親子などです。(NHK動画リンク支えあって防災のまちづくり 安心して帰ってこられる町に」)

二つの事例から分かったこと:事例1では、大震災による被害を被っても、行政の画一的な対応(津波被災者のみが支援対象)が理由で、制度上は被災者と見做されない人たちがいることが分かります。そのようなことから、「災害ケースマネジメント」が被災者を取り残すことなく支援する、新しい手法が採用されました。内閣府のHPには災害ケースマネジメントの定義として、事例1で紹介した内容が示されています。地方公共団体や民間団体に対して、この手法に関する内閣府の説明会が2023年から始まっています。さらに「災害ケースマネジメント全国協議会」が2024年に開催されました。全国社会福祉協議会を始めとして日本医師会、日本建築士会連合会、日本弁護士連合会などの専門家を擁する14の全国組織が、災害ケースマネジメント全国協議会を構成しています。生活再建のためには健康、建築、経済、法律など多面的な支援が必要ですが、それらがバラバラにならないような調整が不可欠です。日本で地震や洪水などの甚大災害が頻発し、生活再建支援の必要性が増す中で、災害ケースマネジメントという新たな手法が発達しています。

事例2で紹介した洪水の被災者に対するアンケート調査の結果では、災害後の生活再建で被災者の直面する諸課題が明らかにされています。倉敷市真備町では生活再建の支援が、被災住民自身によるボランティア活動として実施されました。細かいところに手が届く、まさに「共助」の長所が発揮されたことでしょう。「公助」は支援の規模は大きいのですが、タイミングが遅くなりがちで、また画一的な支援になり細かい配慮は不得意でした。共助と公助のそれぞれのメリットを活かすのが理想でしょう。倉敷市では事例1で紹介したように、災害ケースマネジメントの手法が採用されて官民連携が実現しています。
上記の事例1と2の記述は、NHK地域づくりアーカイブスの動画を再生し、その解説や会話の音声を筆者が文字化した文章を作成して、それをこの記事で読みやすくするために短縮して掲載しました。もとの長い文章はこちらに掲載しています。(中島正博)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA