今年の夏から近所の公園へ行き、ラジオ体操の集いに参加する日課を始めました。もう20年近く自宅で一人、朝のラジオ体操をしていましたが、場所を移して公園まで歩いて行き、近隣住民が長く続けているラジオ体操に加わることにしました。その理由は、朝起きて間もなく、日の光を浴びながら運動して、体内時計をリセットして、睡眠に良い効果を得るためでした。ところが睡眠の効果以上に得るものがありました。
午前6時です。人びとが目覚める直前で町はまだ静かです。遠くの物音まで聞こえてきます。ゆっくり歩いて公園に向かう途中、虫や鳥の鳴き声など自然の音が聞こえます。犬の散歩をする人たちに路上で会い挨拶をします。名前は知りませんが、その人たちの姿はもう覚えてしまいました。早めに公園について、東の空を見ながら柔軟運動をします。良い睡眠のために朝日を十分に浴びたいのですが、早朝はなぜか雲間からうっすら太陽を垣間見ることの方が多いのです。6時半前に毎朝ラジオを持ってくる人が公園に一番に現れます。間もなく三々五々と次第に住民が集まってきます。私は参加者数人と挨拶をします。総勢で30人くらい集まります。多くの参加者の姿を覚えましたが、名前はまだ知りません。そしてラジオ体操が始まります。
懐かしいラジオ体操の歌が流れます。“新しい 朝が来た♫ 希望の朝だ♫ 喜びに 胸を開け♫ 大空あおげ♫ ラジオの声に 健やかな胸を♫ このかおる風にひらけよ♫ それ1、2、3 ♫” コロナのこともあり大きく広がって体操を始めます。公園の広い空間の中なので、自ずとこの歌のように大空を見上げながら、清新な空気を吸いながら、胸を開いて体操をします。変化を続ける空は見ていて飽きません。時折、鳥が広い公園の空中を横切ります。参加者の半数は私のような高齢者でしょう。参加者は歳に応じたラジオ体操をします。一日の始めに今日を開始する準備が整う気持ちがします。この心身を整える健康の効果が大変大きいと私は思います。そして一人でするラジオ体操とは何故か異なる気もします。人びとや自然と無言の交流があるのかもしれません。体操が終わって参加者が互いにお辞儀をして解散です。帰りは早歩きで自宅に戻ります。そして私は朝食をとり登校児童の見守り活動に向かいます。
私の町のラジオ体操に参加して、そのコミュニティづくりの有効性に気づきました。あって無いような、緩やかな住民の結びつきで、参加・不参加は自由で何の縛りもない、このような集いは貴重な存在だと思います。時間になったら集まり、淡々と体操をして去ってゆく、もっとも緩い形のコミュニティです。他方、町内会のお祭りなどでは、知り合いがいなければ寂しくなる雰囲気がありますが、このような集まりには、知人がいなくても自然な参加が可能です。
広島市は「高齢者いきいき活動ポイント」の制度を実施しています。市内の高齢者が地域の活動に参加すればポイントを貯められるのです。年間100ポイント貯めれば、広島市から一万円の奨励金がもらえます。このラジオ体操もその恩恵を受けて、参加すればポイントがもらえます。つまり一回参加すれば百円の価値がありますので、他の町内活動でも住民参加の良いインセンティブになっています。町内で実施している「百歳体操」や「さわやか太極拳」や町内にあるスポーツジムも同様です。私の場合、早朝のラジオ体操が、一日の清新な始まりに役立っており、お金に変えられない価値になりました。
その後、町の床屋さんでこの話をすると、隣町の公園でも毎朝ラジオ体操をしていると聞きました。その公園では毎朝、参加者が公園の掃除をした後、ラジオ体操をしているそうです。公園の清掃活動と一体のラジオ体操になっており、集まる人は10人くらいです。掃除とセットなのでハードルが少し高いかもしれません。全国津々浦々でこのようなラジオ体操が行われて、地域社会や会社や住民に良い効果をもたらしてきたことでしょう。(中島正博)