私は民生委員児童委員の研修に参加してきました。10月31日の朝、広島市から北へ一時間余り、紅葉の綺麗な山道を進むと、研修先の広島県立加計高校芸北分校はありました。広島県唯一の分校の高校です。分校長先生がにこやかに迎えてくださり、感動的な高校の現状をうかがいました。分校でお聞きした内容を基に報告させて頂きます。
広島県北部の芸北地域に子どもが少なくなり、現在の中学校の三年生は21人。その生徒たちの全てが芸北分校に進学するわけではなく、例年は7割ほど。このままでは統廃合の危機です。なぜなら、全校生徒が80人未満となった学校は統廃合になる可能性があるのです。学校がなくなると地域が衰退する、と地域の人たちも大きな危機意識を持っています。実際に、平成25年4月に芸北地域に5つあった小学校が1つに統合されたので、地域の人たちには、そのことが身をもって分かるのです。そこで、地域をあげての取り組みが行われています。
まず芸北地域以外の子供たちも受け入れようと、廃校になった小学校の1つを全面改築して宿泊施設(雄学館)にしました。1つの教室を2つに分けているのでかなり広い個室です。ご飯も朝食・夕食は手作り、昼食は北広島町の協力により中学校で給食を食べます。舎監さんも料理を作ってくれる人も地域の人です。お盆、年末年始以外は寮を利用できます。女子は近くの民宿に下宿しています。もちろん、行政の助成制度があり受入態勢は万全です。
さて、それでは実際の在校生はどうでしょう。平成29年度は、芸北地域の入学生が13名、芸北以外の山県郡の生徒数が12名、県外を含めたそれ以外の地域からの入学生が13名となっています。まだまだ、取り込みが足りません。何しろ、昨年度、芸北で生まれた子どもは、二人しかいないのです。他所の地域から芸北分校に入学する生徒の中には、中学校生活で様々な理由で自信を失うなどでして不登校等になり、自然豊かな小規模校で環境を変えて頑張ろうと入学する生徒が何人かいます。だからといって、分校の授業カリキュラムは、一般の高校と何ら変わりがありません。特別なプログラムはないのです。また、寮からは4キロの道のりを自転車で通わなくてはなりません。広島の県北に位置していますから、冬は大雪が降り積もります。そうなると、4キロの雪道を歩いて通学しなくてはなりません。でも、欠席する生徒も、遅刻する生徒もいません。皆、普段どおりに学校に来ています。どうして、そういう頑張りが生まれているのでしょう。
それは、全職員、生徒同士、更には地域の人たちとの温かなコミュニケーションの力なのです。先生方は一つの職員室に全員が集まっており、全校生徒の様々な情報を共有しています。欠席した生徒がいたら、先生方はみんなで心配して職員室は大騒ぎ。寮に駆けつけるほどです。少人数ならではのきめ細やかな指導も可能で、大学への進学率も高く、昨年は30名の卒業生のうち、7人が国公立大学に受かりました。
また、芸北出身の生徒は、他所から来た生徒を温かく受け入れ、コミュニケーション力に自信のなかった生徒たちも、次第に心を開き、会話もスムーズにできるようになるのです。また大規模校だと陰に隠れてしまいそうな生徒、居場所がなかった生徒も一人ひとりの活躍の場面が多く、役割がいろいろあるのです。全員が部活動をしており、掛け持ちの生徒も多くいます。特に神楽部は全国高等学校総合文化祭文化庁長官賞を受賞するほどの上手さですが、やはり掛け持ちの部員がたくさんいます。伝統ある神楽の火を絶やさないように様々な地域から来た生徒が頑張っているのです。
芸北分校は、北広島町立芸北中学校との連携型中高一貫校でもあります。昼食は中学校で一緒に食べますし、体育祭も合同で行われます。更に、多くの交流を通して、自分たちが地域の人びとに喜んでもらえ、元気をあたえる存在だと思えるので、自信を持つことができて、自己肯定感が高くなるのです。このような、環境の中で過ごしたので、将来、芸北に戻って働きたい、という希望を持っている生徒が多くいますが、就職先がないのが現状です。それで地域産業の担い手を育成する学科もあります。地場産業にしようと、生徒が育てているりんごをとても美味しくいただきました。
私たちの帰り際、生徒の一人が次のように話してくれました。「コミュニケ―ン力が弱くて、中学校は不登校でした。ここに来た当初は、声掛けをするのも勇気がいったけど、皆が温かく受け入れてくれたので、すぐに仲良くなりました。クラス全員が友だちです。コミュニケ―ン力もついてきたので、卒業したら都会に行って力を試してみたいです」。大きな希望に満ちた若者たちを育てる、魅力の溢れる分校と地域でした。(中島敦子)