ご近所づきあいと近隣トラブル

協力し合える地域コミュニティを作るには、いろんなタイプのコミュニティについて考える必要があります。自宅からの距離の点でいろんな「ご近所さん」があります。その中でも「向こう三軒両隣」は、昔から親しく交際するご近所の最小単位でした。いろんなタイプのご近所さんとの関係の中でも、今回は向こう三軒両隣のご近所さんについて考えてみました。都市化の中で向こう三軒両隣は、門前清掃の時に会うものの、日ごろの付き合いが深いわけではないのが現状でしょう。あるアンケート調査によれば、近隣住民に不満があると回答した人は20代から50代の男女で34%にのぼっています。戸建てとマンション住民に差はありませんでした。不満の内容は高い順から騒音、挨拶、車や駐車場の使い方、タバコのマナー、ペットの飼育やマナー、ゴミの分別や出し方、玄関前や廊下などの共有部の使い方、タバコを除く悪臭、覗きなどの嫌がらせ、バルコニーなど共有部での植物の育て方などです。近隣トラブルを解決するには、ご近所付き合いによるコミュニケーションが必要であると言われます。

昔と比べて今の向こう三軒両隣の関係は、付き合いやコミュニケーションが少なくなったでしょう。昔のご近所さんには、「先代からのお付き合い」が多かったでしょうが、今の戸建ての場合、空き地が生じたら、その土地に縁のなかった人が落下傘のようにやって来て、近隣が密集化します。当然向こう三軒両隣の先代からの長い繋がりはなく、ゼロからのお付き合いなので、ご近所の関係ができるには時間を要するでしょう。

さらに昔との大きな違いはマンションなど集合住宅の増加です。昔も長屋はありましたが個人主義ではなく互助の発想に支えられていました。現代のマンションでは、上下左右のご近所さんとの距離は天井や壁になりました。そして戸外はベランダで繋がっています。このように距離が接近すると、距離によるマイナスが現れるでしょう。その代表的なものは「音」です。特に上階の音が下階に及ぼす音の苦情が最も多いのです。またベランダでタバコを吸う「ホタル族」の煙害も、ご近所に近隣トラブルを引き起こしています。加えてマンションの建物にはセキュリティの強化で、近隣の旧住民との断絶が起きています。

このように戸建てでも集合住宅でもご近所さんとの関係は、マイナス要因が増えています。マイナス要因が増えても、ご近所さん同士は仲良く、助け合いながら暮らしたいものです。それでは昔の人はどのようにして、ご近所さんとの関係を保っていたのでしょうか。昔でもマイナス要因がゼロだったわけではないでしょう。ご近所であれば何らかの影響を及ぼし合います。そこでマイナスの迷惑がある時でも、良い関係を維持するための生活の知恵が「お互い様」だったと思います。ある時に一方から迷惑があるとしても、人びとは長い間に互いに多少の迷惑は容認してきました。先代も子孫も含めればさまざまなことがあります。

そんなマイナスの悪影響があっても、プラスの「お互い様」も無数にありました。長い間、自宅を留守にする際には、隣家にその旨「ひと声」かけておけば、無料で「セコム」のような防犯の役割を演じてくれました。その「ひと声」は私の記憶にはまだありますが、すでに都市では皆無に近いでしょう。火事などの災害が起きた場合には、住人の安否確認やバケツリレーもする、近隣の「近助」や「共助」が強力な役割を果たしました。火事が広がって、自宅に及ばないようにとの動機もあったでしょうが、基本的に人びとは繋がっている、他人事も自分事という「直観」、放っておけないという「衝動」は、人なら誰でも「人間性」として、持っているはずです。今でも電車の中で、お年寄りに席を譲る若い人はいます。

冒頭に述べたように「近隣トラブル」の解決には、ご近所付き合いによるコミュニケーションが不可欠です。しかしコミュニケーションやお互い様の意識を生む人びとの「関係性」が衰退しつつあると思います。その原因は何でしょうか。最大の要因は、現代の過剰な競争社会の中で、他人よりも自分、という「分断」の感覚ではないかと思います。その感覚は自然なものでしょう。しかし、そこには大きな忘れ物があります。それは自己と他者の「繋がり」の感覚ではないでしょうか。人間社会に競争はつきものですが、それが余りにも過剰になりました。どうすればその繋がりの感覚を地域社会で取り戻し、「近隣トラブル」も少なくして、さらに協力して住みやすいご近所にしてゆけるでしょうか。やはりコミュニケーションの機会を増やすことだと思います。その方法についてはまたの機会に考えたいと思います。(中島正博)

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