地域コミュニティ創造のために 第1回 地域コミュニティ衰退の原因

地域コミュニティが希薄化している背景には現在進行中の原因が存在します。地域コミュニティの創造を目指すからには、コミュニティ衰退の背景や原因を認識しなければ、それを実現する実効的な方策を探ることはできないでしょう。今回は、歴史的な趨勢として近代化、都市化、市場経済、個人主義などや個人主義と市場経済が結びついた利便性志向が、いかに人間関係を希薄化させコミュニティ衰退の原因になっているか考えたいと思います。

地域コミュニティの希薄化は日本の近代化に原因があります。前近代の日本では、自然資源(山野河海)の利用・管理は地域の統治者とコミュニティにより行われていました。近代国家の成立と伴に中央集権の法制度が制定されて、明治政府が全国に画一的な統治と行政を行うようになりました。新たな法制度で資源管理の正統性を失った地域コミュニティには、資源管理の役割は求められず、その結果コミュニティが衰退する要因が生まれました。現代に至るまでそれは続いています。

国家の役割の拡大による地域コミュニティの弱体化は現代社会に皮肉な形で現れています。それは住民に見られる行政依存です。住民自らが地域の課題に向き合わず、行政サービスに過大な期待をする傾向です。地域住民同士の繋がりが弱くなり、住民自身が地域の問題を共同して解決する「地域力」が弱くなりました。

地域コミュニティ衰退の原因は都市化に求めることもできます。近代化による産業の発展は人口移動を引き起こし、都市化や都市の拡大として表れました。都市に新しい地域社会が現れ、一旦は地域コミュニティも形成されましたが、戦後の高度経済成長と個人主義の風潮により弱体化しました。都市化と同時に広まった核家族化も地域コミュニティの衰退に拍車をかけました。

近代化の過程で、伝統的な相互扶助に見られる人びとの関係が、貨幣経済で置き換えられてきました。つまり近隣の人びとの協力関係で行われていた生産や生活上の営みが、貨幣経済の普及に伴い、市場を通して手軽にカネで買えるようになりました。例えば農作業から冠婚葬祭に至るまで、人びとのさまざまな共同行為が、市場で購入できる機械やサービスで代替されて、相互扶助のために不可欠な地域コミュニティの維持があまり重要ではなくなりました。カネの役割を増大させカネに頼った結果、私たちの近隣を始めとする社会の人間関係が縮小しつつあるのです。

個人主義の風潮が日本では特に戦後になって強まりました。それは人びとの意識や生き方に及ぶので、生活や社会のあらゆる側面に影響が現れます。例えば、伝統の軽視、核家族化、利便性の志向、社会における人間関係の軽視などです。その結果、人と人の関係性が貧弱になります。さらに個人主義と市場経済は相性が良く相互に強め合います。それは市場経済では各個人が利益の最大化を目指すからです。そして現代社会の人びとは市場競争の中で、互いに競合する個人に分断されます。人びとや社会を分断する要因は、資源の奪い合い、経済的勝者と敗者、組織のリストラ、人・地域・国レベルの経済格差など数多いでしょう。

個人主義はあらゆる分野でパーソナル化(「私化あるいは私事化」)を進めます。テレビ・携帯電話などの道具のパーソナル化や、「個食」に見られるライフスタイルにまで及びます。人と人の共同行為は個人の思い通りになりません。個々人の考えや都合が異なるからです。しかし共同行為や相互扶助は個人ではできないことを可能にします。その共同行為のメリットを犠牲にしながら、個人の思い通りになるパーソナル化、つまり利便性の追求が進行しています。そのメリットの犠牲を克服する手段が、個人にサービスを提供する市場での消費(利便性の購入)であり、サービスや商品の開発や商業主義が私たちの利便性の追求を刺激しています。そして今や利便性は絶対的な価値になったかのようです。

利便性を追求するサービスや機械が開発され、それを購入するカネを稼ぐために、さらに個人主義を優先しなければなりません。個人主義、市場競争、利便性、パーソナル化が現代社会で循環しています。モノが豊かになったはずの日本社会ですが、共働きや長時間労働で収入を得るために、そしてその労働時間を確保するために、家事や移動の時間を短縮する便利なサービスやモノをさらに購入する、という矛盾に陥っているのではないでしょうか。その長時間労働は個人が地域社会で過ごす時間を奪い、地域での人間関係を希薄化しコミュニティも衰退するのです。個人主義志向の結果のネガティブサイクルです。

このようにして社会から共同性(人と人のつながり)が減少してきました。地域コミュニティが衰退した背景には、このような現代の個人主義や市場経済が根底にあり、その上に出来上がった社会の仕組みがあります。コミュニティの形成を阻害する要因は強力で、コミュニティを再生する処方箋づくりは容易ではないでしょう。このような現実を直視しながら、実効的な地域コミュニティ創造の方策を追求することが必要でしょう。次回の記事では、実際に地域社会で具体的にどのような問題が起きているか考えたいと思います。(中島正博)

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