地域コミュニティ創造のために 第2回 地域コミュニティの課題と役割


現代文明の趨勢である都市化、市場経済、個人主義、利便性追求などが人間関係を希薄化し、地域コミュニティを衰退させていることを前回の記事で述べました。それは私たちが気付かないところで進行しています。会社員が通勤と帰宅を繰り返す日常では、地域コミュニティの希薄化はあまり意識されないでしょう。しかし突然起きる大災害に見舞われると、近隣コミュニティの助け合いや協力が無ければ、被害は大きくなり住民はより深刻な困難に直面します。逆に、地域コミュニティの互助活動に守られて、被害を軽減できたとの報道に接することがあります。阪神淡路大震災や東日本大震災の頃から、「絆」や地域コミュニティの重要性が改めて意識されるようになりました。しかしその重要性が意識されても、現実に地域コミュニティが再生・創造されるとは限りません。

事実、地域コミュニティが衰退する現代社会の傾向に歯止めがかかっているようには見えません。それどころか都市化、市場経済、個人主義、利便性追求などの文明の勢いに比較すれば、地域コミュニティづくりはまだ小さな動きに留まっているようです。そして社会やコミュニティを「分断」する動向は日本でも欧米でもさらに顕著になっています。現代社会で価値観が多様化しているのは自然だと思いますが、異なる価値観に不寛容になると、社会の分断や対立が生まれやすく、生活のニーズを満たす地域コミュニティの再生・創造が阻害されるかも知れません。それに私たちは気づくべきでしょう。

価値観の差異による人間社会の分断が存在しても、「地域で生活する人間」はもっと深い「生きる」という次元で、人びとの課題は共通していると思います。従って地域で生きる人間として、地域コミュニティの共通の課題に対応するために、その再生・創造に取り組むべきでしょう。それでは地域コミュニティは私たちの生活にどのような課題を提示しているのでしょうか。地域の生活を幾つかのカテゴリーに分けて、防災、防犯、福祉、環境の側面から整理してみましょう。

先ず防災面では、先ほど言及したように、今後必ず起きる大震災の被害を軽減するために、地域コミュニティの互助の仕組み作りや体制を要求しています。その他、気候変動で激化する豪雨災害においても、住民の間の情報連絡が求められます。一般に行政組織は危険地域から離れているので、危険地域付近の住民の感覚や情報が必要です。防犯面では、地域の「住民の目」が最大の役割を果たします。防犯カメラの設置は限られています。住民の目が行き届いている街では、犯罪者は住民の目を恐れて犯行に及びにくいでしょう。自治会などの住民組織がしっかりしていれば、不審者情報も地域の人びとに伝わり易く、地域の防衛力が高まります。

福祉は人びとの日常生活に関することなので人間関係が最大の力になります。地域の独居老人や障がい者の見守り活動は既に行われています。認知症で徘徊の恐れがある高齢者の外出に、地域の人びとが気を配れば、行方不明になる高齢者の命を守る力になります。そして何よりも町内会のサロン活動などで住民間の交流が盛んになれば、引きこもりがちな人を減らして、地域の人びとが心身の健康を維持できます。

環境の面で人間関係はどんな役割があるでしょうか。一般に人は自分の行動について、大なり小なり他人の目を意識します。自分の周りに人がいない場合、ポイ捨てをする人がいるかも知れませんが、どこに知人がいるか分からない状況で、恥ずかしい振る舞いはできないものです。環境美化に限らなくても、環境保全の伝統が強い社会では、環境や自然を大切にする行動様式が歓迎されます。町ぐるみで取り組む美化運動、途上国の環境などに配慮するフェアトレードタウン、資源を有効活用するシェアリングシティ等々の社会動向は、地域コミュニティ全体で環境保全に関連する宣言をすることにより、個人の行動様式を変革しようとするものです。それはまさに地域コミュニティを構成する人間関係を基礎にして環境問題に取り組む運動であると言えるでしょう。

このように地域コミュニティは私たちの生活に必要な課題に取り組むことができます。それには私たちの地域コミュニティを再生・創造しなければなりません。しかし、それが分っていても、地域コミュニティは自然に再生・創造されないので厄介です。一つ一つの身近な生活の課題に取り組む行動が、その再生・創造の必要条件でしょう。さらに、最初に述べた現代文明の趨勢の中で進める地域コミュニティづくりは、新しい発想を開発して取り入れる、新しい地域社会の開拓作業なのかもしれません。第3回はそれに触れてみたいと思います。(中島正博)

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