非常事態宣言とコロナ禍克服のための地域社会

政府がコロナ禍対策の非常事態宣言(2021年1月8日~2月7日)を出して、2週間余りが過ぎました。緊急事態措置を実施すべき区域にある繁華街について、人出の増減が毎日報道されています。昨年の第1次非常事態宣言と比較して、今回の宣言の効果の低いことが分かっています。その理由はいろいろ議論されていますが、「緊急事態慣れ」なども指摘されています。

そこで私が思い出したのは、豪雨時に自治体が発令する避難勧告や避難指示です。これらは豪雨による人的被害を予防するために、地域住民に対して発令されますが、その発令にも関わらず、近年の相次ぐ豪雨の度に多くの犠牲者が出ました。もちろんコロナ禍の非常事態宣言と、豪雨の警戒行動を同様に論じることはできません。しかし豪雨時に発令される避難勧告の効果が限定的だったことから、実態調査が行われて、以下のことが分かっています。例えば、西日本豪雨(2018年)の際に避難した人びとの動機は、自らが身の危険を感じた(24.2%)、家族や近隣住民の声に反応した(21.6%)、避難指示に従った(6.3%)と答えていました。そこで非常事態宣言による外出自粛の現状を考えてみます。

新型コロナ感染者数は、人口密度が高く日常的な人の移動距離の長い大都市で多いのが事実です。人びとの接触機会を減らすために緊急事態宣言が発令されましたが、政府の宣言に対する反応が思わしくない理由は、自治体による豪雨災害時の避難指示に対する反応が低いことと似ています。豪雨災害の避難に際して、家族や近隣住民の声がより有効なのは、人の行動に関して近しい人間関係が及ぼす影響の方が大きいからでしょう。中小都市に比較して大都市の方が、一般的に人間関係が希薄なことは容易に想像できます。ということは緊急事態宣言への人びとの反応が限定的なのは、大都市の人間関係の希薄さにも大きな原因があるのかもしれません。

従って緊急事態宣言の個々人に対する浸透を効果的に図るために、地域コミュニティを構成する町内会や自治会などと協力することは可能性の一つかもしれません。人びとの行動は地域住民の目にさらされていますから、自ずと地域住民の外出自粛の意思は人びとに伝わると思います。個人の行動を町内会や自治会が制限することは当然できませんが、豪雨災害と同様に命を守るためのコミュニケーションはできます。ニュースで報じられる例えば、東京渋谷駅交差点横断歩道の周辺の町内会が、その周辺の歩行者の数を減らせるということではありません。電車に乗って繁華街までくる人びとが居住する地域社会に目を移せば、繁華街に人びとが集中する三密を減らす対策と効果が期待できるのではないかと思うのです。

現在のコロナ禍の収束には長い期間が必要との専門家の見方があります。また近年世界でエイズ、サーズ、エボラ出血熱などに続いて新型コロナが発生したように、今後も新たな感染症が発生する可能性は高いのです。今回のパンデミックを抑えるために、町内会・自治会などの地域団体は住民が集う多くの地域活動を中止しました。しかし同時に地域社会はこの災害を克服する一端を担うことはできないでしょうか。すなわちパンデミックを未然に防ぎ、パンデミック後には感染者の自宅療養を支援し、外出自粛で弱る住民の心身の健康を維持し、経済的ダメージを受ける人びとや事業者を支援するために、地域団体や地域コミュニティは行政と共に活動する諸々の知恵を絞るべきではないでしょうか。多くの国民は、自分は感染しないだろうと思いがちですが、地域の掲示板に張り紙があれば、パンデミックをより身近に感じる住民もいるでしょう。緊急事態宣言によって経済的に困るフリーランスの人びとを支援しようと、地域の有志の活動がすでに動き始めています。

政府・自治体や医療関係者に、パンデミック対策のすべてを任せるのは、その規模の大きさに鑑みて難しくなっているようです。今回のコロナ禍は現世代が初めて経験する災害なので、地域社会は準備ができていませんでした。しかし今後の地域も担う感染症対策は、今回のコロナ禍と同様に、将来にもやってくる感染症の対策に活かせることができると思います。(中島正博)

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