西日本豪雨と防災、そして地域コミュニティの役割

 平成30年7月豪雨 – Wikipedia

この度の「平成30年7月西日本豪雨」の災害の被害に遭われた方々に、お悔やみとお見舞いを申し上げます。今、西日本では西日本豪雨の災害からの復旧作業が懸命に行われています。

災害直前のNHKの気象関連の報道では「数十年に一度の豪雨」に対して、最大の警戒をするよう訴えていました。あれほど切迫した口調の報道は、初めて見たような厳しいものでした。自治体の防災メールも刻々と変化する状況に応じて発信されていました。豪雨のレベルの変化に応じて注意報、警報、特別警報が発表されました。そして特に7月5日木曜日夜頃から危険度が高まり、自宅付近の地域には小学校区ごとに避難勧告、避難指示と避難先などが示されました。私が住んでいる学区は避難指示に入ってなかったし、氾濫の可能性がある河川や急傾傾斜地は付近にないので、私と家族は避難しませんでした。しかし近くの複数の学区には避難指示が出されていました。もし避難指示の学区の住民全員が指定された避難所に行ったら、その建物に入りきらないだろう、と私は気になりました。

西日本で多くの災害が起きた6日、7日と週末が過ぎ、週が明けた月曜日からは、スポーツジムや町内会の太極拳の集まりで、近隣の人と会う機会がありました。私が会った人びとからは、避難したとか何かの被害があった、という話は聞きませんでした。避難指示はあったが避難しなかった人や、避難場所を知らない人もいました。避難指示が出た隣の学区には、避難した人が数人いたという話は聞きました。被災地でも事前に避難した人は、対象住民に比して少なかったようです。携帯電話が大音量で鳴る防災メールが何か知らないお年寄り、防災メール慣れした人びとがいるのも事実でした。

災害から二週間を経た7月21日の中国新聞によると、「西日本豪雨で死亡し、20日までに身元が判明した広島県内の犠牲者105人の内、6割以上の67人が自宅や敷地内で被災していた」ことが判明したそうです。この事実から自主避難の難しさが分かります。阪神淡路大震災の頃から災害時には、先ず自助、次に共助、そして公助という発想が求められるようになりました。災害の現場から位置的に離れマンパワーに限界のある公の支援よりも、自分の命は自分で守る自助の行動を即刻起こすことが必須であるのは言うまでもありません。

次に現場から近く、自分の近隣の人びととの共助、つまり地域コミュニティの人びとの声掛けや助け合いが重要です。公助の情報が充分届かない人たちに声掛けをすること、住居の周辺に氾濫や地滑りの前兆を察知した住民が目前の危険性を伝え、体の不自由な人とは一緒に避難することなど、共助は災害前後の行動で最も人命救助に貢献する可能性が高いでしょう。今回の災害でもそのようにして命拾いをしたケースは数え切れないはずです。

昨日7月20日の朝日新聞デジタルは、広島県東広島市黒瀬町洋国団地の例を取り上げて、「土石流でもけが人ゼロの団地 結実した訓練と担当者制度」と報じています。「洋国団地では、一戸建て49戸のうち約10戸が大破し、ほかの約10戸にも土砂が流れこんだ。しかし、犠牲者やけが人はゼロ」、「団地では3年前から年2回、土砂災害を想定した避難訓練を続けてきた。…歩くのが難しい高齢者や障害のある住民が団地にいることも把握していた。避難を助ける『担当者制度』を考案し、民生委員ら5人を『担当者』に決めた。…自治会の掃除などで顔を合わせる住民たちに、『自分の命は自分で守る。何かあったら早う逃げんさいよ』と繰り返し訴えてきた」そうです。この団地を土石流が襲ったのは7日早朝でしたが、その時「団地の住民95人のうち、足の不自由な高齢者ら約3分の1はすでに避難を終えて」いました。全員避難ではありませんでしたが、他の洪水地域では二階へ上がれない高齢者が犠牲になったことを考えれば、洋国団地の避難は効果的だったのです。防災に貢献するコミュニティ活動の一例です。

今回の災害に関して避難や被害の実態、復旧のための知恵や努力の全容は、これから次第に明らかになり検証されると思います。避難中の被災者の困難はまだ続いているし、インフラの復旧、被災家屋からの泥の除去や生活再建、産業の生産活動の復旧も途上であるし、渋滞する交通の中で通勤する人たちの困難もまだ続いています。この大災害の様々な経験を十分に検証して生かし、私たちの今後の社会の営みに関連して、自然災害の被害を軽減する社会の仕組みを、衆知を集めて考えなければなりません。例えば、住民の効果的な避難、共助の地域コミュニティづくり、代替水源を持つ水道ライフライン、代替交通の確保、渋滞を緩和する通勤方法、そして今回の災害に学んだ防災文化の普及も大切だと思います。各地域の地理的条件が異なるように、防災の形はコミュニティによって異なるので、地域で災害を語り継げば地元の防災文化の形成に資するでしょう。

近年の頻発する豪雨は過去の常識を超えており、その原因は地球温暖化に大きく起因していると思います。地球温暖化は人類が努力すれば軽減できますが、もはや阻止することはできないので、私たちはそれに適応しなければなりません。この度、気象庁が発表したように、「数十年に一度の大豪雨」ではなくなる可能性が高いことを私は懸念しています。数十年に一度だからと言って、社会の仕組みづくりや防災文化創造の備えに、時間的な余裕があるわけではありません。そのように豪雨災害を軽減し、早期に復旧・復興する社会の仕組みを創れば、想定されている他の大規模地震災害、すなわち南海トラフ地震などの災害も軽減して、早期に地域社会の復興を図ることにも役立つと思います。(中島正博)

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