(中国新聞2018年1月22日)
空き家が増えている住宅団地に新たな政策が導入されます。高度経済成長期の人口移動や核家族化に伴って住宅団地がたくさん建設されました。同世代の若い住民が一斉に入居したため、その住民がいま高齢化して空き家が増えています。子供世代が団地に戻ってこないのです。それは全国的な問題ですし、広島市に多くある住宅団地の中にも、同様の例があることはこのサイトでも紹介しました。政府や自治体でも、その解決策が今まで真剣に検討されてきました。
その解決策として、国土交通省の平成18年度の施策として、新しい制度が導入されることが今年1月21に報道されました(中国新聞2018年1月22日)。それは団地の空き家を老人ホームや訪問介護といった、高齢者向け施設や保育所に改修するための補助制度です。現在の住宅団地は一戸建て住宅中心で構成された町が多いのです。団地の区画内に老人ホームや介護施設などの高齢者向け施設や、十分な保育所などもありません。将来を予測する知恵が日本社会にまだ不足していたのでしょう。
その結果、高齢者が老人ホームに入る際には、長い間暮らしてきた団地から引っ越して、さらに郊外の施設へ引っ越すことを余儀なくされました。郊外の土地は低価格なので老人ホームも建てやすいのです。住み慣れた近隣コミュニティから離れざるを得ず、知人から遠く孤独になります。あるいは団地の丘陵の坂道が不安なので、都市施設の多い平地のマンションに引っ越す高齢者もいます。多くの人は、体の許す限り知人の多い団地のコミュニティに住み続けたいと思います。しかし、空き家が増えてしまえば、地域コミュニティを正常に維持しにくい、いわば「限界団地」のようになるかも知れません。
先の報道によると、その「新制度は、老人ホームや訪問介護事業所、保育所を運営する事業者などが空き家を改修する費用について国と自治体が三分の一ずつ補助する。さらに自治体の判断により独自の補助を上乗せすることも想定する。子育て世帯などが空き家に入居するためのリフォームや、耐震補強の費用も支援対象とする。地域の意向に沿った町づくりに向けて、住民や施設の運営事業者、自治体などで協議会をつくるよう要請。協議会が、施設の件数や立地場所を盛り込んだ計画を作成することを補助の条件とする方向」だそうです。
団地のコミュニティを維持しながら団地に住み続け、さらに若い世代を呼び込むためには、現在の団地住民にとって好ましい新制度だと思います。「協議会」には施設の運営事業者や自治体が含まれていますが、最も重視されるべき関係者は現在の団地住民でしょう。何故なら団地の事情を最も熟知している人たちだからです。また、現在や次の世代のことだけでなく、さらに先の事も考えると、「計画」を作成するに際して考えるべきことはまだ多いのではないでしょうか。
一人暮らし世帯も増加します。良きコミュニティに生きるためには、住民が高齢化するに伴って、現在需要が増しているコミュニティカフェのような、住民同士の交流や居場所がより大切になります。同様に高齢者に必要な運動や交流ができる公園も欲しいし、それは高齢者の引きこもりを防止するでしょう。
今後日本の人口は急速に減少するので、それぞれの自治体の範囲にあるすべての団地の生活インフラや交通サービスを維持するのは難しそうです。ということは、自治体全体の都市計画との関係も考えなければならないでしょう。「コンパクトシティ」や「縮小社会」の将来が議論されている現在、その将来像は団地の新しい補助制度と矛盾する面があるかもしれません。日本全体や自治体のしっかりした将来ビジョンが求められると思います。
また日本人は歴史的に外国人と同じ町に住む経験が乏しく、日本の労働人口が減少する現状に鑑みて、外国人労働者にも住みやすい町づくりが求められるのではないでしょうか。高齢者人口の割合が大きい高齢化社会に入っています。このように日本社会は急速に変化しているので、計画づくりに際して考慮すべきことは、団地だけの将来ではないように思われます。難しい計画作りだと思いますが、あなたは如何お考えでしょうか。(中島正博)