2.シェアリングエコノミーとシェアリングシティ~シェアムーブメントの始まりから著書の誕生まで~


前回に続いてShareableの著書“Sharing Cities: Activating the Urban Commons”の紹介をします。今回は18ページにおよぶ「イントロダクション」(Neal Gorenflo執筆)の中から、部分的に文章を翻訳しながら、「シェアリングエコノミー」や「シェアリングシティ」のシェアムーブメント(運動)の始まりから、この本の誕生までの経緯をご紹介します。原著の文章の翻訳は括弧「…」で示して、ブログの適切な量を考慮し、原著を短縮・簡略して紹介する文章と区別します。

「“Sharing Cities: Activating the Urban Commons”は、市民が都市を運営し経営することは可能であると同時にそれはすでに存在していることを示す、11分野にわたる137の事例と政策を集めた著書です」。その11分野とは住居、交通、食料、仕事、エネルギー、土地、廃棄物、水、技術、財政、統治のカテゴリーであり、それぞれは都市の資源であり都市のコモンズ(urban commons)として扱われています。シェアリングシティは例えば、「ブラジルの市民参加型の予算づくりから、イタリアで住民が管理する公共空間、米国のタクシーの共同組合まで、ほとんどの都市サービスは、市民が互いに民主的に管理できるのです。」と市民が主役になる都市の可能性を著者は確信しています。

「酷くなる人びとの収入の不平等、気候変動、財政問題などを背景に、都市住民が自らを組織し、民主的で、誰も取り残されることなく資源を共有して、自らの必要を満たすための手段を拡大することが重要です。本書の事例や政策は、市場や技術や政府ではなく、都市に住む住民をその都市の中心に据える、という新たなビジョンを提供しています。この本は広い読者層を対象に書かれましたが、都市のピープル・ファーストのビジョンを共有し、その実現に向けて行動しようとする人びとから反響があるかも知れません。」その行動は社会的な運動(movement)です。世界の多くの事例を集めた「この本はその運動の言わば証人であると同時に、手ごろな価格の住居や持続可能な交通手段など、多くの課題に直面する都市の一連の挑戦に対して、コミュニティを基にして解決するための実践的な参考書にもなります。」と都市の市民やコミュニティを最重要視するビジョンを著者は強調しています。

ムーブメントの始まり
「2011年5月7日に、サンフランシスコにあるコーワーキングスペース(共働施設)の『インパクトハブ(Impact-Hub)』で、その2年前に私が共同で設立した非営利メディアのShareableが、『Share San Francisco』をテーマに会議を開催しました。会議では、『如何にしてサンフランシスコの都市をシェアリングの舞台として強化できるか』という問いについて考えるために、市政府職員、非営利団体、社会起業家たちを130人集めました。すでに多くをシェアしていたサンフランシスコですが、どのようにしてさらにより多くのものをシェアできるか、私たちは知りたかったのです。」と著者はImpact-Hubでの会議をムーブメントの始まりに位置付けています。

その会議の登壇者たちは自分たちの観察を基に、都市におけるシェアリングの機会の可能性を考えていました。すなわち、「地球上の人間の半分以上が都市に住み、かれらが携帯電話をもって世界的に繋がっている、その状況から生まれる新たな可能性を開発し始めたこと。イデオロギーで政治が行き詰まっている時代の中でも、現実的な問題解決を志向するリーダーシップの存在が示すように、都市は変化することがまだ可能なこと。低価格で生産する技術や効率的な共同生産の方法により、モノの生産はより民主的かつ地理的な分散が可能になったので、モノやサービスの多国籍企業への依存を大きく減少させ得ること」などの観察です。

会議の後、Shareableはサンフランシスコ市の職員にシェアリングエコノミーの知識を提供し、それは同市のシェアリング関連の制度を策定する「シェアリングエコノミー・ワーキンググループ(SEWG)」の設置に繋がりました。「その6か月後、サンフランシスコ市のSEWGに影響されて、韓国ソウル市の朴市長は『シェリングシティ・ソウル』を開始しました。SEWGと比べて、シェリングシティ・ソウル(本書第4章)は政策とプログラムのパッケージからなり、より実体的な内容を伴っていました。(…)シェリングシティ・ソウルは世界で最大のシェリングシティ運動の推進母体になり、朴市長には2016年に権威ある賞が贈られました。ソウル市は世界に大きな影響を及ぼして、数十もの都市が同様のプログラムを採用しました」。ヨーロッパや南米の非常に多くの都市にもシェアリングプロジェクトが広がっています。アジアでは現在、「日本シェアリングエコノミー協会」が日本の26自治体と共にシェアリングシティプログラムを開発しています。韓国では、ソウル以外の7都市も同様にプログラムを開発するべく宣言しました。

これらの都市の外にも、「シェアリングシティ」という看板を掲げてなくても、シェアリングやコモンズや共同生産がプロジェクトや開発戦略の中心的な役割を果たしている都市は多くあります。さらに都市の自治体の行政は係らないが、シェアリングの運動に連なる多くの試みもあります。従って「シェアリングシティ」は、市民が都市の持続可能性や民主主義や繁栄を共有する、多様で大きな試みや運動の一つであると言っても良いでしょう」。そしてShareableが2013年に開始した世界の「シェアリングシティズ・ネットワーク」の活動家メンバーの中から、この本を作るアイデアが生まれました。

この本の誕生
Shareableは9か国にわたる15人のチームでこの本を作ることを決め、そのプロジェクトを2016年に正式に開始しました。「都市でシェアリングを支援する、確実で有望な事例調査と都市のモデル的な政策(法律や規則や計画)の収集をチームは決定しました。(…)都市はほぼ全ての面において、市民による市民のための都市を、コモンズを基礎にして、運営し経営することが可能である、と私たちは信じています。Silke Helfrichが2015年のIASC都市コモンズ会議のスピーチで指摘したように、都市コモンズは現実のユートピアです。この確かなユートピアは私たちの手が充分に届くところに存在しています。なぜなら、完全なシェアリングシティとしてある都市が形成されたわけではないが、その多くの部分(parts)はすでに存在しているからです。本の作成チームはこの現実のユートピアを本の形で表現して、ユートピアを形成するためのマニュアルにしたい、あるいはその一つの始まりにしたいと思いました」。また「本はチームの仲間によって作られましたが、彼らは独断的な考えは持っていません。シェアリングシティが何から構成されるか決めつけることはしません。私たちは不完全ながらも、シェアリングシティ形成の対話に貢献したいと思います。」と述べて、編著者としての立場を明確にしています。

長くなったので今回の紹介はこの辺りで終えます。第3回の次回には都市コモンズを含めて「イントロダクション」の説明を終えて、第4回から実際の事例の紹介をしたいと思います。(中島正博)

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