1.シェアリングエコノミーとシェアリングシティ~“Sharing Cities: Activating the Urban Commons”から~

地域コミュニティの創造について、このサイトの2017年10月8日13日の記事に書きました。地域の人びとの助け合いが必要である、という理由や理屈を説くだけでは地域コミュニティは生まれないという趣旨です。つまりコミュニティの必要性を熱心に説明しても、机上の理屈だけで地域コミュニティは生まれないのです。それは、町内会の加入率減少の現状を憂いて、加入率の増加のみを目指しても、結局加入率は減少し続けていることに現れています。私たちが地域で生活する上で、目前の具体的な必要、例えば防犯や住民福祉や環境保全などにおいて、地域の人びとの利益になる活動をする過程で人びとが係り合い、その活動の結果としてコミュニティが形成されるのだと思います。地域住民の「共通の利益」を追求することで、現代の都市社会の重要課題である、経済格差や環境破壊などを改善する「運動」を提唱し、具体的な事例を紹介する書物がアメリカで出版されました。その運動を展開する過程で、上述したように地域コミュニティが創造されると思います。

その本の題名は“Sharing Cities: Activating the Urban Commons” (暫定的な日本語訳ですが、『共有都市:都市コモンズの活性化』)です。非営利団体のShareableによって2018年に出版されました。タイトルにSharing CitiesやUrban Commonsを掲げたのはSharing Economy(共有経済)をさらに根本的に促進するためです。シェアリングエコノミーとコモンズ(私の記事では「入会」=いりあい)については、私が2017年9月8日の記事において、「『シェアリングエコノミー』~その起源と地域コミュニティの役割」、「『シェアリングエコノミー』~環境保全や資源保全と不可分の地域コミュニティづくり」と題して、私の思うことを少し述べました。

現代のシェアリングエコノミーの代表例として、インターネットを使って配車サービスを行う米国のウーバー・テクノロジーや、宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのウェブサイトのエアビーアンドビーなどがよく挙げられます。しかし、私が上記のシェアリングエコノミーの記事に書いたように「地域コミュニティ」を主役にしなければ、経済格差や環境破壊を引き起こしている資本主義経済に変革を迫るはずの、本来のシェアリングエコノミーが矮小化されてしまいます。つまり経済活動の主役としてのコミュニティの住民が、市場に従属する単なる消費者に成り下がるのです。

地域の自然資源を持続的に利用するために、昔から世界の至る所に存在する制度が「コモンズ」です。地域社会の人びとが自らの生存のために、その地域の自然資源を持続的に利用する制度として、利用者がその資源を管理する仕組み(=「コモンズ」)が生まれたのです。その際に必然的に伴う地理的な領域(地域)やコモンズ的な概念を埋め込むために、先の本の題名の中で「シェアリングエコノミー」を「シェアリングシティズ」(共有都市)と呼び、さらに都市の「コモンズ」を活性化することを強調したのです。そうしなければ、持続可能な経済としてのシェアリングエコノミーが理解されないまま矮小化されて、既存の資本主義に吸収されることを本の編著者は危惧しているのです。

実際に、先日5月4日のNHKニュース番組によると、ある日本の大手会社が製造する高価なボートのレンタルをその会社が始めたのですが、会社はその単なるレンタル制度を「シェアリングエコノミー」と呼んでいました。シェアリングエコノミーの悪乗りです。「エコロジー」を言葉だけ商業利用する多くの偽「エコ」があるのと同様に、内実を無視した言葉の単なる商業的な利用でしかありません。利益のために何でも利用する商業主義が蔓延する社会で、偽物によって本物の本質が見えなくなり、忘れられてしまうことは避けなければなりません。

「シェアリングエコノミー」や「シェアリングシティズ」はビジョンです。それは共産主義ではないし、すべての国や地域に適用可能で万能な既存の「社会の設計図」も存在しません。それぞれの地域社会や地域資源に相応しい形を、地域コミュニティで創造してゆくものです。また「シェアリングエコノミー」や「シェアリングシティズ」は全く新しい経済・社会でもありません。例えば包括的にみれば、農山漁村では日本の水利組合、森林組合、漁業協同組合など、あるいは都市では町内会が公園(地域資源)管理の一環として一斉清掃をすることでさえも、「シェアリングエコノミー」や「シェアリングシティー」の範疇に入れても良いと思います。この本は、「シェアリングシティズ」と呼ぶにふさわしい事例や政策を、世界中からピックアップして紹介しています。「コミュニティづくり研究所」のホームページでそれらの事例を翻訳して、これから紹介する予定です。ブログの一記事の適切な字数の範囲内で「シェアリングシティズ」や「コモンズ」について十分説明するのは難しいので、今後の記事も読んで頂ければ幸いです。

“Sharing Cities: Activating the Urban Commons”を出版した非営利団体のShareableは、この本を買わなくても読んでもらえるように積極的に「シェア」しています。一般的には複写などで本の内容を配布できない著作権を設定していますが、この非営利団体はインターネットでこの本を丸ごとダウンロードできるようにしていますし、緩い条件の下で、複写などいろんな方法や媒体で広く普及することを可能にしています。現代社会を改革する「運動」を広めるためには、本の売り上げ収入よりも本の内容を広くシェアすることを優先する方針の表れでしょう。私のこの記事を読まれた皆様も、Shareableのサイトで「FREE PDF」をダウンロードしては如何でしょうか。

次回のブログ記事では、この本の「イントロダクション」をかいつまんで紹介します。「シェアリングシティズ」のビジョンがもう少し明らかになると思います。その後、この本に掲載された事例を選択して紹介します。(中島正博)

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