5. シェアリングシティにおける都市のガバナンス(統治)

By 663highland [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html), CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/) or CC BY 2.5 (https://creativecommons.org/licenses/by/2.5)], from Wikimedia Commons
書籍『Sharing Cities(シェアリングシティズ)』の第11章は都市のガバナンス(統治)がテーマです。本章では、都市空間などのさまざまな都市の資源を、市民が共同利用・共同管理する「コモンズ化」の理論的な背景について説明し、市民の活動について具体的な事例や都市政策を示しています。今回の記事では第11章の理論的な背景に関する記述(pp.251~253)を翻訳して、以下に紹介します。

都市は「衝突」の中で身動きできなくなりました。都市はビジネスの投資競争の中で行き詰っていますが、同時に、住民が公共財や社会サービスを利用する必要に応えようとしています。このような理由から、世界的に拡大する二つの反対方向の傾向を、都市は追求しているので、その「衝突」は驚く事ではありません。つまり一方では、都市が商品化しています。そこでは商取引によって疎外された市民を犠牲にして、民間のバイヤーに公共の空間(コモンズ)が売られています。他方では、恐らくこの民営化への反動として、都市が協働、協力、シェアリングのエコシステムに向かって、変化する傾向が拡大しています。

都市への圧力は社会的な運動によって高まっています。その運動というのは、Henri Lefebvreが1968年の彼の著書“Le Droit a la Ville”で提案したスローガン、「都市の権利」を唱えて、都市行政に対して主張している要求です。「都市の権利」とは、都市の住民が公共空間、都市の資源、その他の彼らの生活に必要な要素に関して、決定するプロセスに参加する集団的な権利である、と一般的に表現できるでしょう。ブラジルの”Movimento dos Trabalhadores Sem Teto”やイギリスの「道路を返せ」やトルコの「Gezi公園抗議」などはすべてこの例です。しかしこれらの運動の影響は限定的でした。それは彼らの運動や要求を進歩させて、「都市の権利」に結び付ける概念的あるいは法的な枠組みがなかったからです。

シェイラ・フォスターとクリスチャン・ライオネの著書「コモンズとしての都市」は、都市自体をコモンズと見なして創造する、という新しい方法を提供することによって、都市コモンズの枠組みを提案しています。それは人びとがどのように「都市の権利」を行使できるかに関する、価値のある発想でもあります。もしコミュニティの集合的な行為が、都市の共有資源から共通の富を創造するのであれば、如何にその行為自体が都市から富を創造するものになるのか、について彼らは説明しています。都市の一人ひとりにその富に対する権利を与えて、その富を配分する決定過程への権利も与える、という方法でも良いでしょう。これはコモンズ化とは明瞭に異なります。コモンズ化は統治の一つの形式であり、共有を市民が自ら組織化する制度に基づいています。そしてコモンズ化は、市民の集合的な行為と集合的な説明責任に完全に依存しており、市民が権威を共有し、権力を共有し、制御も共有します。

本章の事例研究とモデル政策は、そのような都市の協働的な統治システムの事例を紹介します。幾つかの都市はこのプロセスを先導しています。スペインの都市ボローニャとポーランドの都市ガダンスクは市民参加のプロセスを通じて自らを再生しました。ケニアの都市ナイロビでは、世界的に評判が悪い都市のスラムの住民が、入手可能な技術の力を借りて、都市コモンズの公共空間を共同でデザインしました。他方、米国ルイジアナ州の都市ニューオーリンズの災害に襲われて困窮したコミュニティは、自分自身を訓練し資源を集めて、都市計画プロセスに影響を及ぼす能力を獲得しました。

同様に、都市レベルのモデル政策についても、その政策が他のほとんどの都市でも採用されて模倣できるように、政策のいろんな段階の要点を示しながら詳細に説明しました。その例の一つは、ブラジルのポルトアレグレの住民参加型で、しっかりした予算をつくるプロジェクトです。また、カリフォルニア州のロサンゼルスでは、膨大な数の近隣団体の能力を法的に高めて、地区が無視されないようにした例も、私たちは本章で概観します。一方、韓国の首都ソウルでは、税収入を溜めて、すべての地区がより平等なサービスを住民に提供できるよう、各地区に資金を分け与えました。ドイツのドルトムントでは、気候変動を軽減しそれに適応するために、多数中心主義的(polycentric)な政策をつくりました。

これらの事例は都市コモンズが、なぜシェアリングシティのために重要であるか、示しています。都市コモンズがより多く存在すれば、より多くの住民が共有行動(sharing practices)の有効性とエンパワメントを直接経験できます。都市の公園のような小さな資源でも、それをコモンズ化することにより、市民は共に働くことをさらに学び、都市全体をコモンズとして統治する能力を磨いて、シェアリングシティを創造するために必要な技術を身につけるのです。本章の事例に紹介したコミュニティは、適切な割合(mix)のコモンズ化によって、どのようにしてすべての都市がシェアリングシティになり得るかを示すでしょう。
(原文:Ryan T. and Marco Quaglia 翻訳:中島正博)

以上が翻訳した文章です。『Sharing Cities(シェアリングシティズ)』の第11章では、上記の文章に続いて多くの事例と政策が紹介されていますので、次回のシェアリングシティズの記事でその一部を選択して紹介します。(中島正博)

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