地域貢献活動としての広島市の「協同労働」モデル事業

「地域の仕事おこしシンポジウム」という集まりが、フェイスブックのイベント情報で紹介されていました。地域コミュニティづくりに関心を持つ私としては見過ごせないので、8月27日に広島市で開催された集会に参加しました。参加してみると、「協同労働」「町内会・自治会と共に地域を支える」「地元で気軽に集える場づくり」「支え合い、コミュニティの再生に挑む」などと、私の興味を刺激するキーワードが並んでおり、私の知らないところで私の関心テーマの事業が4年前から実施されていることを発見して驚きました。

参加して話を聞いたり、パンフレットやチラシを見たりして、概要が見えてきたのでご報告します。この事業は広島市の「『協同労働』モデル事業」であり、その事業の運営を「『協同労働』プラットフォーム」という団体が行っています。モデル事業のパンフレットには、「みんなが自らできる範囲で出資し、みんなが対等な立場でアイディアを出し合って、人と地域に役立つ仕事に取組む仕組みが協同労働です。仲間と共に地域課題の解決を目指し、一人ひとりが主人公となって取り組んでいきます。」と協同労働の説明がされています。

広島市のモデル事業の場合、高齢者雇用が一つの目的のようです。「一つの目的」というのは他にも目的があるからです。高齢者雇用については、このモデル事業の「協同労働」による起業に対して、広島市が補助金を交付しますが、その交付要件が「広島市を拠点に活動し、構成員が4名以上(うち半数が60歳以上)であること」から分かります。因みに広島市の担当課は経済観光局の雇用推進課です。また他の要件として、「地域課題の解決に取り組み、地域活性化につながる事業であること」および「事業の継続に必要な収益が見込まれること」とされています。

このモデル事業は2014年に開始されて、今日までの4年間で14団体が補助金を交付されて「協同労働」を始めています。それらの団体の活動内容を見ると、それぞれの団体は多様な活動をしていますが、最も多い活動のタイプは地域住民が集うサロン(カフェや習い事)であり、ほとんどの団体が実施しているようです。次に多い活動は住民の困りごと(生活)支援であり、例えば、高齢化で難しくなった庭木の剪定や草取りなどです。他にも地域に特有で多様なニーズに応えようとしています。14団体のリンクでは動画を使って、団体立ち上げの経緯や活動内容が紹介されています。

これらの活動には町内会が行っていたものもあります。例えば生活支援事業は「コミュニティづくり研究所」のホームページでも、ある先進的な町内会の事例を紹介したことがあります。支援される住民から実費を受け取って行っていました。モデル事業で「協同労働」団体が行っている生活支援事業は、そのような町内会が行っていた活動の延長線上に位置づけられるでしょう。サロン活動も同様に現在多くの町内会や社会福祉協議会が有料あるいは無料で行っています。そのサロンを提供するボランティアは無償で活動しています。新しいモデル事業によるものは、協同労働の対価としてサービスは必ず有料です。従って無償ボランティアに依存しないので、経済的には「協同労働」の方が事業の持続性は高まるし、サービスの内容を広げやすいでしょう。一応、有償ボランティアではあるものの、時給にすると数百円程度であり、経済的な雇用というよりも、地域貢献と生きがい創出の雇用と言うべきでしょう。

これまでも町内会などで行われていたサロンや生活支援と比較して、「協同労働」のモデル事業では何が大きく異なるのでしょうか。受益者の範囲が決定的に異なります。町内会の事業の受益者は原則として、町内会費を納めている町内会加入者がサービスの受益対象者です。しかし「協同労働」事業の場合、サービスの受益者は町内会の加入・非加入を問わず、不特定多数に拡大されます。それを考えれば、この「協同労働」事業は、町内会加入者が減少している今の都市社会に対応していると思います。

また自治会・町内会はその加入者の会費によって、町内全体を対象にしたお祭りなどの種々のイベントを実施することが主な役割です。他方「協同労働」事業は、住民の生活上の必要に応じるので、継続的にサービスを提供する点が異なっています。特に生活支援事業は継続的なサービス提供の典型であり、地域社会の高齢化に対応する福祉型の事業に相応しいでしょう。

「協同労働」の現存14団体の構成員数を見ると、4人~10人程度の団体が最も多く、11人以上の団体は5つ存在します。多様な活動を実施するには、構成員の人数が少ないように私は思いましたが、全員一致の合意形成が原則の「協同労働」にとっては、少人数で迅速な意志決定ができるメリットがあるそうです。団体の立ち上げ時の構成員は少なくても、団体や活動内容がどのように発展するのか、今後の展開や可能性が楽しみです。

高齢者雇用がモデル事業の目的に含まれているので、「団体の半数が60歳以上」という要件は仕方ないでしょうが、高齢者が中心であることが一つの懸念材料です。つまり地域の気心の知れた仲間で事業を開始して、そのままさらに高齢化すると、長期的な持続性が心配です。仲間意識に囚われず、開放的な団体運営を心掛けて、比較的若い高齢者が加わり続ければ、団体の持続的な発展が期待できると思います。モデル事業を今後継続して得られる経験に学び、補助金給付の要件や事業の運営方針を、柔軟に改善し続けることが大切だと思います。冒頭で紹介した集まり(シンポジウム)に参加して学んだ、広島市の「協同労働」モデル事業に関する、私の理解と考えたことを以上ご紹介しました。

コミュニティづくり研究所のホームページでは、シェアリングエコノミーやシェアリングシティの課題について記事を掲載しています。シェアリングシティの考えは「協同労働」と共通点があります。広島市モデル事業の「協同労働」は、日本で法制化が検討されている「協同労働の協同組合法案(仮称)」とも共通点があります。コミュニティづくり研究所はこれらの関連した課題について、今後も取り組みたいと思います。(中島正博)

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