災害復興住宅におけるコミュニティづくり

復興公営住宅の下神白団地  出典:ふくしま復興情報ポータルサイト

今回の記事は震災後の2015年と2018年に完成し、福島県いわき市の2か所の復興住宅に入居した住民の自治会活動を紹介します。この復興住宅の住民社会としては新たな出発であると同時に、多くの人びとには終の棲家であり、安心なコミュニティづくりはとても大切です。コミュニティの人びとの繋がりは災害関連死を防ぐこともできます。前回の投稿の仮設住宅や広域避難と同様に、今回の2つの事例を通して「コミュニティづくり」に共通する条件が浮き彫りになりました。二つの地域の事例は以下の通りです。

事例1:ベンチやカフェで住民の交流をして自治会を結成(2019年放送)福島県いわき市で2015年に完成した復興公営住宅の県営下神白団地。原発事故で大熊町から避難した人300人が暮らしている。団地のコミュニティ活動の中心は集会所。週に二回住民たちがカフェを開いている。今は活気に満ちているが4年前の入居当初は全く違っていた。自治会役員の佐山さんによれば、入居者に高齢の一人暮らしが多く、孤立が心配だった。そこで相談したのはNPO「みんぷく」。みんぷくは復興公営住宅の自治会づくりを支援していた。「あいさつから始まって、顔が見える関係で、いろんなコミュニケーションの場を作るのが一番いいと思う」と言われて、佐山さんが最初に取り組んだのがベンチづくり。ベンチは全部で14脚、団地内のさまざまな場所に置かれて、住民たちの交流の場になっている。さらに交流を進めるために始めたのが人気のカフェ。多くの住民の参加を促すための工夫がある。コーヒーカップを住民たちに持ち寄ってもらった。自分のカップがあるので集会所に来やすい。交流が深まり入居から1年後には自治会が結成された。手芸、カラオケ、太鼓のサークルができた。「やっぱり人と人の繋がりだ。自分一人でやろうといっても何もできないが、2人3人集まれば何かできる。それで人の輪が広がっていく」と佐山さんは言う。(NHK動画リンクみんなで創る新しい町 自治会作りは関係作りから」)

泉本谷団地の集会所 出典:福島復興情報ポータルサイト

事例2:住民同士が知り合い自治会主催でイベントを開催(2019年放送)福島第一原発から南へ50㎞の福島県いわき市には、原発事故の影響で故郷から避難したおよそ2500人が暮らしている。2018年春に完成した県営復興公営住宅の泉本谷団地には、浪江町、双葉町、富岡町、大熊町など、異なる町で暮らしていた人たち約100世帯が入居している。これまで互いに知らなかった人たちの繋がりづくりが課題。自治会長の伊藤さんは、住民同士が知り合う機会を以前から何度もつくろうとしたが、人はあまり集まらなかった。この団地の中でも孤独死が起きた。2019年に入って、孤独死を無くすための活動が本格的に始まった。団地の自治会は、住民同士が顔を合わせて、知り合いになる機会をどう作るか議論を始めた。注目したのは団地の集会所の有効活用。団地の住民が気軽に集える場にしたい。住民たちの自治会活動を支援したのは、福島県の委託を受けたNPO「みんぷく」の「コミュニティ交流員」。みんぷくが中心になり、手芸の会やカラオケ大会などが開かれ、住民同士が顔を合わせる機会が増えた。2019年2月は団地の自治会活動の大きな転機。初めて自治会が主催するイベント「定期清掃&あったか鍋会」が開かれた。イベントで住民同士の会話は弾み、「何となく涙がでた。こんなこと8年前は想像もしていなかった」と住民は言う。(NHK動画リンク復興住宅をあらたなふるさとに つながりを作り孤独死を防ぐ」)

2つの事例を通して「コミュニティづくり」に共通する条件:その条件の第1は、私的ではない人びとの共的な「空間・場」の存在です。条件の第2は、人びとを「繋ぐ人」あるいは活動家の存在です。第1の共的な空間とは人と人が出会う場であり、事例1では集会所でのカフェ、団地の14か所に置かれたベンチ、サークル活動の場、事例2では集会所での手芸の会やカラオケ大会、自治会が主催するイベントの場などです。第2の人びとを「繋ぐ人」とは、事例1では自治会役員の佐山さんやNPO「みんぷく」の「コミュニティ交流員」、事例2では自治会長の伊藤さんや「コミュニティ交流員」が該当します。

上記の事例1と2の記述は、NHK地域づくりアーカイブスの動画を再生し、その解説や会話の音声を筆者が文字化した文章を作成して、それを読みやすくするために短縮して掲載しました。もとの文章はここに掲載されています。

(中島正博)

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