7. シェアリングシティにおける公共用地のコモンズ化とコミュニティ

書籍『Sharing Cities(シェアリングシティズ)』の第6章は都市の「土地」がテーマです。都市にある公共の土地(コモンズ)が商品化して、民間資本に売却されています。本章では、公共用地の再開発に市民が関与しコモンズ化を進めて、市民のための土地利用を促進する事例や政策が紹介されています。今回の記事では、先ず市民の関与による土地のコモンズ化、その土地利用に伴うコミュニティの動向に関する記述(pp.145~147)を翻訳して、以下に紹介します。

オープンスペースは健全で活力のある都市のためのキーワードです。歩くことができて、安全で、緑のある空間では、家族や友人や同僚やさらに多くの人びとと出会い、そして関係を築く可能性が大きくなります。シェアリングシティに関する議論では、オープンスペースのみに焦点を当てることはできませんが、貧しい人びとの居住地域を再開発することは、オープンスペースに関する議論の一つになるでしょう。シェアリングシティを促進する私たちが、もし、都市コモンズを生み出す人びとの生計を確保し、そして利益を最大化しようとする通常の関心を捨てる方法を見つけて、再開発に伴う緊張に取り組まなければ、「都市コモンズの悲劇」はさらに酷くなるでしょう。シェアリングエコノミーの言説が、利益志向のプラットフォームに乗っ取られた経緯から判断して、シェアリングシティも間もなくシェアリングエコノミーと同じように障害に躓き、現在も支配的な利益志向の社会を再生産するかも知れません。

このようになるのを避けるグループの活動があります。例えば、ニューヨーク市の「596エーカー」の活動は、協働的な地図作りのデータを使用して、ニューヨーク市の貧しい地域の近隣の人びとを支援するために、草の根の人びとを強力に組織化し、さらにサポートもして、公共の空き地を再生し、コミュニティの目的のために確保し使用しています。ベルリンでは、市民が一般投票を推進して、公共の土地所有権を保証することにより、新しい住宅街にある古い市営空港を再開発する地元自治体の計画を変えました。フランスのモントレ―ユは、貧しい人びとの居住地域が再開発されているパリ郊外の都市ですが、毎年実施される「桃の壁祭り」と呼ばれる文化的なお祭りを上手く利用して、歴史的かつ伝統的な地区を開発から守りました。別の大陸にあるアフリカ・ケニアのナイロビでも、「マクル・フェスティバル」の活動家によって、モントレ―ユとよく似た戦略が展開されました。そこでは、コミュニティを共に創るよう居住者をエンパワーする目的で、スラム地域内外の人びとが、その土地に抱く見方を転換するように、文化的なイベントが行われました。

社会関係資本(ソーシャルキャピタル)は人々の結びつきを表しますが、その結びつきは「空間」を利用する人びとによって形成されます。まさにこの社会関係資本は、政治経済学者の故エリノア・オストロムによれば、コモンズが首尾よく自己組織化される際に、決定的に重要なのです。従って、市民が社会関係資本を活用できる地域では、政府の都市計画の具体化は何十年にも亘って脅かされてきました。ベルギー・ヘントの「Living Street」プロジェクトでは、市民が使用する道路を市民の実験でカーボンニュートラルの道路に作り変えるよう、市の行政は市民の集合的な知恵を活用しています。コロンビアのボゴタでは、対話と法的な枠組みが、都市の問題であった落書きを、文化的な営みとして認識されるような、都市の装飾に変えています。

デジタル化もまた都市に機会を提供します。デジタル化はこれまでにない規模で、市民がデータを集めて創造的に利用することを可能にします。これは都市コモンズにとって非常に大きな可能性になります。都市の行政は土地に関する膨大なデータを保有していますが、市民がそのデータにアクセスし利用することは、これまで容易ではありませんでした。しかしそれがオープンデータになると、ニューヨーク市の「596Acres」の団体や「Code for Amerika/Germany」のような、また他の多くの地域の独創的な活動に見られる、ボトムアップの革新性を触発します。

最後に、シェアリングシティを促進する実践は、過去何十年にも亘って、私たちの周りに実際に存在してきたことを、私たちは忘れてはなりません。その実践のいくつかは古臭く見えても、それは今日も有用であるかも知れません。つまるところ、都市は人口、資本、機会の集積に関することなので、土地を扱うこの第6章では、都市における権力や所有権に関する問いを、はっきりと提起して回答するでしょう。市民にとってより公平な都市にするべく、都市の「空間」を形成するために、私たちはどのように権力を共有できるのでしょうか?シェアリングシティを実現するには、都市でどれだけの「非公式」や「反抗」が必要なのでしょうか?これは尋常ではない問いですが、著者の私たちが選んだ事例を批判的に評価するために、あなた方の心に留めておいて欲しいのです。
(原文:Adrien Labaeye 翻訳:中島正博)

以上が翻訳した文章です。ここに紹介したように、ニューヨーク、ベルリン、モントレーユ、ナイロビ、ヘント、ボゴタなどの例では、公共の土地などのコモンズ化を促進する過程で、コミュニティが生まれ活動しています。市民によるコモンズ化の過程では、結束したコミュニティによる、通常の利益志向社会に対する「非公式」な「反抗」が必要であるようです。つまり、コモンズ化は市民の「運動」がなければ実現しないのでしょう。

『Sharing Cities(シェアリングシティズ)』の第6章では、上記の文章に続いて多くの事例と政策が紹介されています。次回のシェアリングシティズの記事では、ニューヨーク市の市民団体「596エーカー」の活動事例を紹介します。

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