シェアリングシティに関する連載記事の第7回では書籍『Sharing Cities(シェアリングシティズ)』(出版:Shareable)第6章のテーマ「土地」について紹介しました。世界の幾つかの都市の市民の関与による土地のコモンズ化の動向、その土地利用に伴う団体やコミュニティについて紹介しました。今回は事例としてニューヨーク市のグループ「596 Acre」(pp.150-151)の翻訳を以下に紹介します。
コミュニティのために公共の空き地を利用
原文:596 Acres
課題:
町の中の主に有色人種の低所得者層が住んでいる地域では、フェンスの向こう側に千以上の使われていない土地が存在しており、ゴミ捨て場になっています。ブルックリンにあるポーラ・セガルが住んでいる、Bedford-Stuyvesantの近隣にもそのような土地があります。ポーラは2010年にこの土地について近隣の人たちと話し始めました。彼女はその土地について可能な限りの情報を集めて、コミュニティで集会を開きました。その集会はさらに多くの集会にひろがって、Myrtle Village Greenまでたどり着きました。Myrtle Village Greenはおよそ2エーカーのコミュニティ空間であり、庭、野外の映画用スクリーン、カボチャ畑、教育や研究用の農場に活用されています。彼女はそれを見て、「ニューヨーク市には使用されていない公共地が、どのくらいあるのだろう」と思いました。彼女は2011年にニューヨーク市のデータを見つけて、596エーカーの公共の土地が存在しており、それを地域コミュニティが活用する可能性があることも分りました。その後まもなく「596エーカー」という名の団体が誕生しました。
解決策:
596エーカーのチームはカスタマイズされた地図づくりツールを使って、自治体の空き地に関する利用可能なデータを、その土地の人びとにとって有用な情報に翻訳することを始めました。この情報に基づいて、自治体が所有する空き地のフェンスに、お知らせを掲示しました。その掲示には英語とスペイン語で「この土地はあなたがたの土地です」と書き、その土地を管理する機関の説明も書きました。さらにお知らせには、その土地を庭や公園や農場として、利用することが許可されるかもしれません、とも告げました。自治体所有のその土地区画を確認する手段と、土地の管理者とその電話番号などの情報のリストも、彼らは作成しました。
そのお知らせは、空き地の近隣住民をオンラインの地図やLivingLotsNYC.orgと呼ばれるウェブツールと結び付け、さらに住民がその土地にアクセスするために、役所の迷路(煩雑な手続き)を通り抜けられるよう支援する、596エーカーのスタッフとも結びつけます。
596エーカーの団体はそれぞれの運動の期間に、住民をサポートし擁護する役割を演じますが、住民自身が運動のリーダーとして活動します。それぞれの空き地は、最終的にボランティアやコミュニティのパートナー達が一緒に、食料を生産したり遊んだりする場に変えて、自分たちで維持管理をします。
結果:
2011年以来、200を超える空き地の近隣住民たちは、その空き地を自分たちが利用する場に変えるべく運動してきました。
- 596エーカーの団体は、コミュニティ組織を立ち上げるプロセスを通じて、近隣住民のグループを導き、空き地へのアクセスを公式に獲得できるようコミュニティ組織を助け、その結果コミュニティが管理する新たな土地を39区画つくりました。
- それらの土地のほぼすべてが、その近隣やニューヨーク市全域のコミュニティにとって価値的な空間になったので、その土地はニューヨーク市政府によって、永久的にコミュニティ空間として保存されました。公共の空き地の可能性を活かすこの方針は、フィラデルフィアやメルボルンを含む世界の20以上の都市で模倣されました。
参考資料:
- 596エーカー:596acres.org
- 596エーカーによって使用されたデジタルツールのオープンソースバージョン:github.com/596acres/django-livinglots
(原文:596 Acres 翻訳:中島正博)
以上が米国・ニューヨーク市の市民団体「596 Acre」による活動の紹介です。公共の空き地であっても、それをコモンズ化するには市民による「運動」の必要性がこの事例から分ります。日本でも公共の空き地を市民の花壇や菜園、あるいは駐車場として利用する事例がありますが、他にはどんな事例があるでしょうか。そもそも日本には公共の空き地は少ないのでしょうか。2019年6月に施行される法律により、所有者不明の土地(全国では九州よりも広い面積)を公益目的で10年間利用できるようになりますが、さらに抜本的な制度改革をすることによって、所有者不明の土地を都市コモンズ化して、広く市民が利用可能になる制度を望みたいものです。
2018年は台風や豪雨による土砂災害や地震災害が頻発しており、歴史的な年になりそうです。甚大な災害が発生したことで、復旧や復興のためには「空き地」が必要になることを、改めて認識しました。今後も予想されている甚大な災害に備えて、防火、避難、救護、ガレキ置き場、仮設住宅、都市の復興などのために、「空き地」を確保しておくことが必要になると思います。そのためには、空き地を単純に民間資本に売却するのではなく、非常時のために市民が利用できる形で長期的に残すことが必要ではないでしょうか。経済的には非効率でしょうが、市民の福祉や命より大切なものは無いでしょう。如何でしょうか。(中島正博)