防災における公助と共助の役割~顔の見える関係を

2018年の西日本豪雨以来、豪雨時の避難行動についてメディアで活発に議論されてきました。私もサイトのブログで被災後の半年間の出来事を追い、「西日本豪雨の被災と復旧の語り部に代えて」と題した連載記事を投稿しました。西日本豪雨が甚大な災害になったのは、「早めの避難」をしなかったことが、一つの原因として議論されました。豪雨が長引くほど水害の危険性は高くなり、遅くなった避難の道中で被災する危険性も高くなるからです。

今月6月7日の大雨に際して、全員避難する「大雨警戒レベル4 避難勧告」が出されました。この時の避難行動について広島県立大学が調査を行ったところ、当時避難行動をとった人は6.1%に止まったことが分りました(中国新聞2019年6月18日)。全国で初めて5段階方式の「大雨・洪水警戒レベル」が採用されたものの、昨年の西日本豪雨で得た「早めの避難」の教訓を活かすことがあまりできませんでした。

それは何故でしょうか。理由としていつもよく挙げられるのは「正常性バイアス」です。正常性バイアスとは、「社会心理学災害心理学などで使用されている心理学用語で、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のことです」(ウィキペディア)。自分に照らしてもその傾向はよく分かります。しかし誰がどのようにその情報を伝えるかによって、情報を無視したり過小評価したりするか、あるいは真剣に受け止めるかが分かれることも事実でしょう。

近現代社会は、過去コミュニティ(共)によって営まれてきた地域の経営を、政府や自治体行政(公)が行うようになりました。教育、社会保障、環境、資源管理、安全管理などです。そのプラスは享受していますがマイナスもあります。マイナス面として住民は地域の経営を行政にお任せして、行政コストは大きくなり、住民の当事者意識が希薄になりました。卑近な一つの例は町内会員の減少です。また、もし近隣で問題があると、当事者たちで解決するよりも、行政に依存しようとします。そのような時代の方向性に、行政による「大雨・洪水警戒レベル」の一斉発信を含めることは、あながち無理ではないでしょう。大量の気象データを収集・分析・予測して、住民に提供するのは、行政サービスとして必要だしありがたいものです。水害や地震や防衛などのレベルによって一概に言えませんが、特に比較的ローカルな水害においては、行政による一斉発信の効用と限界を認識すべきかもしれません。

行政による防災情報の発信は、批判を恐れて慎重になり、宿命的に警戒情報を多発する傾向になることは避けられないと思います。その結果として「オオカミ少年」と呼ばれたりします。オオカミ少年と呼ばれても、「大雨・洪水警戒レベル」を発信して欲しいと思います。しかし単なるオオカミ少年にさせない最大のポイントは、近現代社会におけるコミュニティ(共)と行政(公)の役割の変化に気づき、共と公の役割分担を認識することです。しかしそれは以下に述べるように単純ではありません。

飛躍するようですが、公園や電車などの公共施設に掲げてある「…しましょう」「…してはいけません」という推奨や警告の張り紙を思い出してください。これは、実物の人が実物の人に直接話しかけていない、一方通行の呼びかけです。一定の効果はあるかもしれませんが、人が人に直接話しかけるほどではありません。前者は顔の見えない単なる文字や言葉です。顔が見えるだけでも信頼関係あるいは存在感が生まれる、人が人に直接伝えるメッセージのインパクトとは格段の差があります。「大雨・洪水警戒レベル」の情報とは、その深刻さについて大きな違いはありますが、文字のみの限界とか影響の大小という点では共通点があります。

つまり多数の人びとを対象にした顔の見えない文章メッセージと、特定の人びとが表情や語り口を含めて、体全体で表現するコミュニケーションやメッセージとは大きな差があります。前者が無意味であるというわけではなく、それは恐らく全員がアクセスできるメッセージであり、後者は個人と個人が直接関わり、大きなインパクトを与え得るものであり、前者と後者は役割分担の関係でしょう。読者はすでにお気づきかも知れませんが、前者が行政による「大雨・洪水警戒レベル」の「公助」の発信であり、後者が災害時の声掛けなどコミュニティによる「共助」の活動に相当すると思います。災害警告システムの進化とともに、今後前者と後者の混合型も現れるでしょう。両者の差を特徴づけるものは、誰がどのように情報を伝えるかによって、正常化バイアスを克服できるかどうかではないでしょうか。
私の以上の問題理解には、近現代社会におけるコミュニティ(共)と、政府や自治体(公)の役割の変化に発想の原点があります。同時に近年の災害や西日本豪雨の被災時に、地域コミュニティ組織が防災・減災に、大きな役割を果たしてきたという厳然たる事実にも基づいています。個人的ですが、昨年の西日本豪雨の7月6日の夜のNHKニュースにおいて、アナウンサーが避難等の豪雨への備えを強烈な形相で訴えていた印象を覚えています。また直近の6月18日の新潟山形地震の直後、津波に備えるためにアナウンサーが丁寧な説明をしていたことも同様です。人の行動に大きな影響を与える要素は何でしょうか。防災は大変重い課題であり、いろいろな対策が必要な問題ですが、皆さんは如何お考えでしょうか。(中島正博)

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